第6章
巫女−参−
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「どうぞ。夕飯前だと思うから、食べ過ぎないようにね」
そう言ってお菓子のカゴも僕に勧めてくれた。
初めて来た知らない相手である僕なのに、どうしてこの人はこんなに優しいんだろうか。思って、ふと、杳さんが原因だと気づく。杳さんが連れて来た僕だから歓迎されているのだと。
「翔くんとセーキと、あと、こいつ入れて4人かな」
「静川さんまで?」
また少し眉をしかめる。それから、あれっと首を傾げて見せた。
「そう言えば、杳、ヒロ知らない? 勉強もしないで、今朝からどこかへ遊びに出たっきり、連絡ないんだけど」
「え…ヒロ? さあ…」
わざとらしく視線を逸らす杳さんは、僕に目を向けた。
「あ、そーだ。そんなことより、先に紹介しておくよ。こいつ、杉浦浅葱」
突然に紹介されて、僕は慌てて頭を下げる。
「いきなりお邪魔してすみません」
「いいよ、いいよ。気にしないで」
そしてまた浮かべる笑顔。この人、きっとみんなから好かれているんだろうなぁって思った。見た目もなかなかの男前なので、モテそうだと思ってしまった。
「僕は結崎潤也。杳とは高校が同じでね、仲良くしてるんだ」
そう言ってその人――潤也さんは杳さんに目を向ける。
杳さんは自分の座る位置をどこにしようかと、座布団を見比べている様子で、潤也さんのことは少しも眼中にない様子だった。
いつものことなんだろうなと、潤也さんの表情から読み取れた。片思いなんだろう。こんなにいい人なのに。
その前に、その相手の杳さんは同性なのになんて言葉は僕には思い浮かばなかった。だって、そんなことは些細な問題でしかないと、杳さんを見ていると思うもの。
そんな杳さんはうんと頷いて、一番奥の席に座った。
* * *