第6章
巫女−参−
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それから約20分後、僕が連れて行かれたのは、余り大きくはない二階建のアパートだった。
「ここに住んでいるんですか?」
まだガクガク震えるひざを押さえて、僕は杳さんを見上げる。
杳さんは勝手知ったるとばかりに、自転車置き場の隅にその大きなバイクを停めた。あの細い腕のどこにあんなバイクを乗りこなす力があるものか不思議に思うんだけど。
「うん。両親不在の家だから、遠慮がないんだ」
言いながら、杳さんは先にアパートの階段を昇っていく。その後を僕も、ふらつきながら追いかけた。
と、目的の玄関にたどり着く前に、そのドアが開けられた。
「杳、いきなりどうしたの?」
ドアから顔を覗かせたのは、僕らと同じくらいの年の少年だった。背はかなり高そうな彼は、眼鏡の奥の柔らかく微笑む目で、杳さんを包み込む。
何となく分かってしまった。この人、杳さんのこと、好きなんだって。なのに杳さんは余りにもそっけなく言う。
「ちょっと場所貸して。他にもゾロゾロ来るから、座布団、足りないかも」
言って、杳さんは後ろを歩く僕を振り返る。そうしたら彼の方も僕に目を向けて、ちょっと眉を寄せた。笑みは変わらなかったけれど。
「いらっしゃい。取り敢えず中に入って。寒くなってきたから」
言いながらその人は杳さんの肩をさりげなく押して、それから僕をも招き入れてくれた。
部屋の中は暖房が効いていて、温かかった。夕飯の支度の途中なのか、コンロに鍋がかけてあった。
そう言えば、両親が不在だと言っていたから、この人、自分で料理するんだ。
僕は杳さんに連れられて、キッチンのすぐ隣の和室に通された。
本当に勝手知った様子で杳さんは押し入れを開けると、座卓の周りにポンポンと座布団を敷いていく。
「えーっと…5、6、7、8…でいいかな」
京間六畳の部屋に8枚分の座布団は、結構ぎゅうぎゅうに敷かれた。
「何? 何人来るの?」
座布団を奇麗に敷き終わって、誇らしげにそれを眺める杳さんに、さっきの人が声をかける。
手に持ったお盆にはお茶とおかきの入ったカゴが乗せられていた。
それを座卓の上に置いて、湯飲みを僕の前に置いてくれた。