第6章
巫女−参−
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碧海が僕にバイクの後ろを譲った理由を、乗って5分で理解した。荒い。この人は思いっきり荒い、自己中ライダーだったんだ。
僕はそれでも降ろしてくれと言うに言えず、そのまま杳さんの身体にしがみつくしかなかった。振り落とされても命がありますようにと、何度も呪文のように心の中で唱えながら。
「ちょっと休憩していこう」
20分くらい走った頃だろうか。杳さんがそう言ってバイクを止めたのは、ログハウス風の喫茶店だった。
思った以上の乱暴な運転に、気を失いかけた寸前だったので、思いっきり助かった。
杳さんは冷たい飲み物を頼んで、僕もアイスココアを注文した。肌寒くなってきたと言うのに、冷たいものがひたすら欲しかった。
「ここからまだ走るんですか?」
僕はストローに口をつけながら、杳さんに聞いた。杳さんは、僕の顔をじっと見てから。
「今、半分くらいかな」
あんまり嬉しくない答えだった。ちょっと肩を落としてしまう僕を気にした様子もなく、杳さんはポツリポツリと話し始めた。
「去年の春にね、竜達が目覚めたんだ」
「え?」
見やる杳さんの顔色は、余り良くないように見えた。それが何が原因かなんて、僕はまだ分からないでいたんだ。
「竜達って…竜王?」
「うん。天竜王と地竜王、四天王と呼ばれた竜達に、多分、他にも全員」
「全員…」
確か竜王が2体で、四天王はその名のとおり4体、他に5体の竜がいたと思う。全部合わせて11体。その全てのことを言っているのだろう。
でも、どうしてそんなに一度に復活してしまったのだろう。
「オレ、何人かに会ったけどね、みんな、多少の前後はするんだけど、オレ達と同じ位の年齢の奴ばかりで。目覚めたのは去年のことでも、生まれたのって、みんな同じ頃じゃない? これって何かの力が加わっているように思えるんだ」
杳さんはそう言って表情を曇らせる。何かって、何だろうか。もしかして。
「父竜…?」
恐る恐る聞く僕に、杳さんはさらりと答える。
「オレはね、そう思ってる。何かの意思をもって竜達を転生させたんだ」
「その理由って、ひょっとして人間を滅亡させる為とか…? あの…父竜は殺戮の神と呼ばれていたんでしょ? 僕達の時代にはそう伝えられていて…」
2300年の昔、竜の宮の巫女として生きていた時代にも伝えられていたことは、宮で守護する巫女が持つ勾玉によって、かつて封じられた巨大な竜がいたと言うことだった。その巨竜は、竜神達の生みの親であり、強大な力を持って人間を滅ぼそうとした。
その巨竜が蘇る…。
これまで予想して恐れていたことが、現実に近づいていることを実感させられた。