第6章
巫女−参−
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あの化け物の結界から抜け出したそこは、ショッピングモールだった。
いきなり人込みの中に現れて、僕達は驚く周囲の人達の目から逃れる為に、慌てて逃げ出す羽目になった。
何が何だか。
何とか建物から外へ出て、一息つく僕達。今日はよくよく走らされると不平をこぼすのは美奈ちゃん。
外は短い秋の日が暮れようとしていた。何時だろうかと思って時計に目をやると、5時前だった。
案外、時間が経っていないと言い合うみんな。
「ちょっと移動して欲しいんだけど」
そんな僕達に杳さんがそう言った。
「どこへ行くんですか?」
美奈ちゃんが聞く。ちょっと楽しそうに見えるけど。この状況を面白がっているのかも。度胸のある娘だなぁ。
「竜に会わせるよ。って言っても、美奈ちゃんは一人知ってるみたいだけど」
杳さんの言葉に、美奈ちゃんはやっぱりと小さく呟いて、心底嫌そうな表情でため息をついた。その美奈ちゃんは、すぐにあきらめたように言う。
「仕方ないわね。連れてって」
腰に手を当てて尊大な態度の美奈ちゃんを見て、碧海が口を挟む。
「美奈って…静川って名字だよな? もしかして静川聖輝って…」
「そ。お兄ちゃん。清水くん、知り合い?」
聞かれて碧海は苦笑いを浮かべる。もしかしてその人が竜なのかな。そんな風に百合子さんも思っているみたいで。
「ここから遠いんだけど、碧海以外、公共の交通機関を使ってくれる?」
杳さんはそう言って、バイクのキーをポケットから取り出す。この人、バイクに乗るんだ?
「えっ、何でオレ以外?」
ちょっと嫌そうな表情をする碧海を、杳さんはジロリとにらんで。
「お金、持ってないんだろ? また後ろに乗せてやるから」
一歩、後ずさる碧海。
「あ…いや…でも、オレ…」
次第に顔面蒼白になっていくのは気の所為だろうか。そんなに嫌なのかな。もしかして乗り物に弱いのかな。そう思っていると、突然僕を指さす碧海。
「あ、そーだ。オレよりこいつ。敵に捕まってたし、疲れてるだろうから、バイクの後ろに乗ってる方が楽かなぁ」
杳さんはジロリと碧海を睨んだ後、僕の方を向く。
「じゃ、浅葱を乗せてやるよ。他のみんなはどうする?」
「あのー。どこまで行くんですか?」
そうそう。場所を聞いていない。
杳さんは別行動組が、降りるべき駅と、駅に着いたら連絡するようにと、美奈ちゃんに電話番号を書いたメモを渡した。
「きゃっ。杳さんの携帯番号ですか?」
早速自分の携帯を取り出して登録をしようとして、手が止まる。
「あれ? 固定電話?」
それは086で始まる県内の、一般固定電話の番号だった。
「うん。集合場所の。駅に着いたら電話して。誰か迎えに行かせるから」
思いっきりガッカリしているように見えるんだけど。そんな美奈ちゃんに関心もないのか、杳さんはもう一度碧海を睨みながら、財布の中から千円札を一枚取り出していた。
今頃気づいたんだけど、杳さん、僕達の呼び方、変わっていた。その所為なのか、何となく僕もみんなを名前で呼ぶようになっていた。
* * *