第5章
巫女−弐−
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 私ってば、しばらく呆然としてしまった。

 我に返ったのは杳さんが手を差し出してくれてからだった。

「ご苦労様。よくやったね」

 無表情のまま言う台詞じないわよね。

 でもせっかくだから杳さんの手を取って、私は立ち上がった。

「その剣はもしかして…竜王の…」

 砂田さんが強ばった声で杳さんに聞いてきた。

 杳さんは剣に目をやると、何かを口の中で呟いた。

 途端、剣は杳さんの手から消滅する。

 息をのむ私達。

「まさか貴方が竜王?」

 砂田さんの言葉に緊迫する空気。

 でも、何か違う様な気がする。この人、そんな物じゃないと思う。

 でも、私、知ってる。あの剣、見覚えがある。

 剣と鏡と勾玉と、古い時代の記憶がふと浮かぶ。

 だけど、すぐに消えてしまった。

 それはこの手の中の光の温もりが見せた一瞬だけの記憶。

 この記憶は――。

「オレは人間だよ。あんた達と同じ。この剣は竜王の剣だけど、彼がその昔オレに与えてくれた物」

 そんな話聞いたこともないと、砂田さんが言う。

 その後ろで黙って杳さんを見つめている杉浦くん。何か言いたそうだけど、何も言わないでいる。

「それよりも危険はまだ去った訳じゃない。父竜の復活が迫ってきているんだ。復活を望む奴らが一番に狙うのはこの四つの勾玉なんだよ」

 杳さんは私達の手に戻った勾玉を指して言う。

「だから守らなきゃならないって、杉浦が…」

 清水くんが言うのを、杉浦くんが途中で口を挟む。

「実際は、この後の事を考えて行動していた訳じゃないよ。集めたはいいけど、敵に捕まってしまったんじゃ、どうしようもないよね」

 少しだけ自嘲気味にそう言いながら続ける。

「僕達のできることはせいぜい結界を張って敵を遮ることだけ。それ以上の力を持つ者には太刀打ちできないんだ。さっきもてんで歯が立たなかったし」

 そう言って杳さんの方を見やる。

「竜達の存在を知っていますね、葵さん」

 目付きが変わったのは砂田さん。

 それに気づいた筈なのに、杉浦くんはそのまま続ける。

「彼らの傘下に入った方が安全だと思います。紹介していただけますか?」

 そしてやっぱり口を挟む砂田さん。

「ちょっと待ってよ。私達だけでも平気よ。竜達になんて頼る必要ないわ」
「本気でそんなこと言ってるんですか?」

 砂田さんにきつく言い放つ杉浦くん。

 人間、外見じゃ分からないわぁ。杉浦くんって、こんな可愛い顔してるのに。

「僕達はもっと大局を見極めるべきですよ。それに、勾玉は僕達の私物じゃない。竜王のかつての挙動に不満があっても、父竜の復活を阻止するには僕達だけの力じゃ及ばない以上、竜神の、竜王の力が必要なんです」

 何かちょっと険悪な雰囲気。


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