第5章
巫女−弐−
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 壁を背にして、行き場を無くした私を庇うように前へ出てくれたのは清水くん。全身でかばってくれようとしている。

 さっきと言い今と言い、何か、ちょっと格好良く見えた。

 だけど、化け物のひと薙ぎで清水くんはふっとんでしまった。

 とっても、あっけなかった。

「清水くんっ!」

 助けようと近づこうとする私の前に立ち塞がる鳥人の化け物。

「綺羅の力を持つ巫女か。現代に転生してまでもそれだけの力を持つとはな」

 何かつぶやく化け物。

 知らないわよ、そんな事っ! 寄るな、触るなって、言っても聞かないわよね。

 私は反射的に逆方向へと逃げる。

 ふと、その私の背後に迫るそいつの動きが鈍る。

 見ると、杉浦くんの赤い勾玉の光が、そいつを包んでいた。

「小賢しいっ」

 赤い光は、化け物の一蹴りに霧散する。

 再び私を捕らえる化け物の瞳。もう、やだっ!

「我らが主の復活の贄(にえ)には相応しい」

 くちばしのような口でそうつぶやくと、そいつはゆっくりと私に近づいてくる。

 獣のような目に、私の足が竦む。

 今度こそもう駄目かと思ったその時。

 社の中に、銀色の光が溢れた。

 それは化け物の背の向こうで光っていた。

 同時に、私の手の中でその光に共鳴するように輝きを増す光。

「…なに…?」

 化け物が振り返り、驚愕する。

 そこには青銀色の剣を手にした杳さんがいた。

 痩剣がきれいな弧を描いて宙を舞う。

 ズサッと、剣が化け物の身体を両断した。

 大して力を入れていないように、軽く振り降ろされただけに見えたけど、その切れ味はまるで空を切るかのようになめらかだった。

 そして化け物は剣に命を吸われるように、瞬間に塵となって消えてしまった。

 あっと言う間のことだった。


   * * *



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