第5章
巫女−弐−
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それは『光』だった。
こんなの、初めて見た。
何も物体はないのに、光だけが手の平にあった。ただ、そのおぼろげな姿は、どこか勾玉に似て見えた。
杳さんは私に光を手渡すと、すっと私から離れた。
「さて、無事全員揃ったようだし、封印を解いてもらうかな」
化け物がそう言ったのと、杳さんが私に合図を送ったのとが同時だった。
私は手にした光の玉を握り締める。暖かいものが手の平を伝って身体に流れ込んでくる気がした。
そして、教えられた言葉をつぶやいた。
『……』
化け物の動きが止まった。身体を動かすことができなくなったように見えた。
そいつはゆっくりと、呪文を唱える私を振り向く。
そして、私の手にしているものに、驚愕の色を浮かべる。
「綺羅の勾玉…!」
その顔が、まるで粘土が溶けていくみたいにドロドロと崩れていった。
私は思わず悲鳴を上げてしまった。だって、あんまりグロかったんだもの。
途切れた呪文に、ドロドロ化け物がにんまり笑ったような気がした。
そしてゆっくり私の方へ向かって移動してきた。
近づいてくるそいつに、私は立ち尽くしたままだった。
その私の手を引いたのは、清水くん。寸でのところで化け物に捕まらずに済んだ。
「大丈夫?」
「一体どうなったの?」
まだ、溶けていくそいつにゾッとしながら、私はつぶやく。
化け物はあっと言う間に人の姿を失った。その代わりに現れたもの。
朱色の羽根をその背に宿し、鋭い爪とくちばしを持つ奇妙な生き物だった。
「…うそっ!」
悲鳴にも近い声を上げたのは砂田さん。
目の端で、杳さんが眉をしかめているのが見えた。
キラリとその化け物の目が光った。
途端、それは私目がけて飛んできた。
清水くんが私の手を取って逃げるのについて、その場を離れるのが精一杯だった。
「美奈ちゃん、呪文!」
杳さんが叫んでくれたけど、今の状況でそんなものが出て来るわけないじゃない。
第一、びっくりした弾みで全部忘れちゃったわよ。不得意なんだってばっ!
狭い社の中、すぐに私達は追い詰められる。