第5章
巫女−弐−
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「どこまで行っちゃったのかなぁ」

 揉めている間に、私たちはすっかり杳さんの姿を見失ってしまった。

 しのごの言ってないで、すぐに追いかければ良かったんだわ。

 後悔しかけた時、ふと、洞窟の奥から物音がした。

 ここからは用心深くいかなくっちゃね。私たちは互いに顔を見合わせる。

 で、途端のことだった。空気から溶け出すように現れた影。

 あの化け物だった。

「自分から戻ってくるとは、人というものは何と愚かしい」

 鼻先で笑いながらそう言う化け物。

「杳さんは?」
「杳? ああ、あの外見だけキレイな奴か。ちょっと奥で大人しくしてもらったよ」

 それって、どーいうこと!?

「それよりこちらも忙しいんでね。いつまでも坊や達の相手はしていられないんだ。そろそろ封印を解いてもらえないか」

 ぷちっと、何かが切れた音がした。

「ふざけないでよっ!!」

 そう叫んだのは私だった。

 今まで大人しくしていたけどね、もう、頭にきた。

「勾玉だか封印だか知ったこっちゃないわよ。第一、偶然見つけたそれに、あたし達が責任取れるわけないじゃないっ。ばっかじゃないの。とっととあたし達をここから出しなさいよ」
「ちょっと、ちょっと」

 横から止めようとするのは清水くん。

 怖いなら下がってなさいと、後ろへ押しやる。

 断っておくけど、アナコンダを経験した私よ。そうそう怖いものなんてないわっ。

「元気だけはいいな。その元気がいつまで続くかな」

 言って、そいつは笑んだ。

 同時に、そいつの手のひらから繰り出される光の塊。

「危ないっ!!」

 叫んで、私の手を引いたのは、後ろへ押しやった筈の清水くん。

 振り返ると、今まで私の立っていた場所が黒焦げになっていた。小さく喉の奥が鳴った。

「次は逃げられるかな」

 もう一度膨らむそいつの手のひらの光。

 後ずさろうとして、背中に洞窟の壁が当たった。

 後がなかった。


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