第5章
巫女−弐−
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 そう言えば、私を助けてくれるときに聞こえた呪文のような呟きは、杳さんのものじゃなかったのかな。

 振り返ると杳さんはまだ治まらない息を整えていた。さっきもそうだったけど、体力ないのかな、この人。

 名を呼ぶと、はっとしたように顔を上げる。

 かなり、顔色悪いように見えるけど。疲れている杉浦くんよりしんどそう。

「大丈夫ですか?」
「別に。ちょっと脱出方法を考えていただけだよ」

 そう返して、プイッと横を向く。何かそっけない。

 顔がよくてもこの愛想じゃあねと、私は肩をすぼめる。

「名案は浮かびましたか?」

 声をかけてきたのは杉浦くん。

 杳さんはその杉浦くんにもそっぽを向く。

「別に」
「そうですか」

 杉浦くんは簡単にそう流して、だけどまるで吟味するかのように杳さんを見やっていた。

 何か言いたそうだったけど、それ以上何も言わなかった。

「とにかく出口を見つけよう。外部に助けを求めることかできない以上、自力で脱出するしかないから」

 一番幼そうな顔をして、仕切るのは杉浦くん。

 本当は一番疲れている筈なのに。

 そんな彼に私は従うことにした。

 砂田さんも清水くんも同意見らしく、うなずいていた。

 それなのに。

「ぞろぞろ歩いてても時間の無駄なだけだろ。オレ、さっきの道、行ってみる」

 杳さんだった。そう、さっき逃げながらの途中にあった分かれ道。

「でも、単独行動は…」
「この面子で単独行動も団体行動も、敵に会った場合の危険度は同じじゃないか。だったら、幾つかに分かれて別行動した方が脱出しやすいんじゃない?」

 そうかもしれないけれど。

「それに、オレ、この件とは直接関係ないし」

 また、それを言う。

 ムッとしているのは砂田さん。

 ため息つくのは清水くん。

 そりゃあ、関係ないかもしれないけど、言わないでほしい、こんな所で。

「じゃあ、行くから」

 みんなが一言ずつ言いたそうにしているのを尻目に、杳さんは背を向けた。そして、ヒラヒラと手を振りながら、洞窟の奥へと進んで行った。

「何なの、あの人」

 呟くのは砂田さん。

 協力的なんだか非協力的なんだか分からない杳さんに、戸惑いを隠せない。よく分からない人だわ。


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