第5章
巫女−弐−
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 思いっきり走らされたけれど、出口はなかった。どうなってるの、ここは。

 荒い息の中、一番にへたりこんだのは疲れていたのだろう杉浦くん。全力疾走の私達によくここまで付いて来たものだわ。

 大丈夫なのだろうかと顔を覗き込んでみると、平気だよと言って、笑って見せた。

 この子、笑うと女の子みたいに可愛い。それなのによく、怖い砂田さんに楯突いていたものだわ。

「陽動作戦、成功したね」

 清水くんが明るく言った。

 誰の思いつきかは知らないけれど、あんな単純な手にひっかかるアイツって、案外、頭悪いかも。

「で、今度はここから出る方法を考えなくっちゃね」

 砂田さんが腕組みをする。

 ここを出る前に、ここがどこなのか分からなくっちゃ。そう思って辺りを見回す。

 走ってきたけど、ずっと長い洞窟だった。

 いくつか枝分かれした道もなかったわけじゃない。そっちへ行っていたら、出口に繋がっていたのかしら。

 横で壁をさすってみているのは清水くん。そんな所に隠し通路でもあるまいし。

「多分、出られないんじゃないかな」

 そう言ったのは、上がる息を抑えながら立ち上がる杉浦くん。

「変だと思わない? 光源もないのにこの明るさは」

 言われて気づく。

 手元足元、陽光程ではないけれど、懐中電灯の明かりよりは明るかった。しかも、どこから漏れてくる明かりかも分からない。

 これが自然界の光だとはとても思えなかった。

「僕たちはまだアイツの手の内なんだよ」

 そう言って杉浦くんは、今私たちがやってきた後方に目をやる。

 何だかすごく不気味だった。

「どちらにしても、こうなると僕が持っていてもね」

 そう言って杉浦くんは持っていた勾玉のひとつ、青っぽい方を清水くんに手渡す。

 そうか、そう言う訳なんだと私は改めて納得する。

 砂田さんの言う勾玉と、その勾玉が選んだ人がこの人たちなんだ。

 で、私のものと砂田さんのものは奪われたままってことだけど。

「それにしてもこの勾玉って、どうやって使うんだ?」

 とは清水くん。返してもらった勾玉を手のひらでころころ転がしながら。

「もともとは父竜を封印している護符だから、その存在だけに意味があるんだ。使うと言っても、せいぜいお守りくらいの効果しかないよ」
「でもさっき、お前…」

 そう、杉浦くんってば結界を張ってなかった? 

「ああ、あれは勾玉の封じる力を利用していただけだよ」
「お前、変なことできるんだなぁ」

 妙なモノでも見るかのような目つきを向ける清水くんに、杉浦くんは困ったように後頭部を掻いていた。


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