第5章
巫女−弐−
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疲労の色を濃く落とすその表情に、わずかに怒りが浮かぶ。
「勾玉を…渡してしまったの?」
化け物の手中にある二つの勾玉が、彼の目に止まったのだった。
「どうして…」
「お前を助けようと思って…」
で、ドジ踏んでつかまったとまでは言わなかったけど、その子には通じたみたい。
それ以上責める言葉はなかった。
「さぁて、それじゃこの封印を解いてもらおう」
化け物が私たちを見渡す。
そんなもの、やり方なんて知っているわけないじゃない。
ふて腐れた顔をしていると、化け物が私に目を向ける。
「お前がいい」
は?
言うが早いか、私、何かに引っ張られた。
ほんの一瞬の間に化け物の傍に移動したかと思ったら、右腕をつかまれていた。
って、また人質?
多分、結界を張っちゃった彼に手が出せないものだから、私を狙ったのね。私って、もしかしてヒロインなのね。
などと悠長に考えている場合じゃなかったわ。
「放しなさいよっ。この変態っっ!!」
言って、思いっきり足蹴りを繰り出す私。スカートじゃなくてよかったわ。
でも、今度は避けなかったけど、化け物は私の蹴りにびくともした様子はなかった。
悔しい。
「さあ、この元気のいいお嬢ちゃんを助けたかったら、言うことを聞いてもらおうか」
ああっ、もうっ、今時、そんなダサい台詞、吐く奴いないって。
それに、第一、誰が勾玉の封印を解く方法なんて知ってるのよ。名乗り出る人なんているわけないじゃない。
「どうした。お仲間がどうなってもいいのか?」
化け物の問いに答えたのは、結界を張っていた彼――杉浦くんだっけ?
「僕が、やるよ」
言って、顔を上げる。
本当に、疲れた顔して、この人、大丈夫なの?
杉浦くんは手に持った勾玉をゆっくりと化け物に差し出そうとする。
赤と青の勾玉が、ほのかに共鳴しているのが見えた。
本当にいいの? 私の中で何かがつぶやいた。ここで渡してしまったら、とても大変なことになるんじゃないの?
「だめよっ」
杉浦くんを止めたのは、砂田さん。彼の前に立ちふさがる格好で、前へ出る。
「だめ、絶対に。勾玉を壊してしまったら、父竜が復活する。絶対にだめっ」
「でも、見捨てられないよ」
杉浦くんは、落ち着いた口調。
「誰も、引き換えになんか出来ないだろ」