第5章
巫女−弐−
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「結局、過去の傷痕掘り返して楽しんでるだけじゃない」
「そんなこと…!」
言い返そうとする言葉が詰まる。
「ま、いいけど。昔のことだし。知りたいなら教えてあげるよ」
くるりと振り返る杳さんは無表情。
今、この人は「傷痕」って言わなかった? 言いたくない、思い出したくないことなのかも知れない。言わせちゃいけないことなのかも知れない。
そう感じたら、とっさに私は口出ししていた。
「そんなことより、ここから出る方が先でしょ?」
ホッと息をついたのは清水くん。私と同じように感じていたのだろうか。振り向くと、目が合った。
「そうだよな。まずは現状打破ですよ」
ひどく前向きな事を言って、私にウィンクしてきた。何なの、この人は。
「そ、そうね」
砂田さんも少しだけホッとしたのかも知れない。
杳さんはそんな私達に複雑な目を向けて、静かに目を逸らした。
その横顔に、本当は聞いて欲しかったのではと、ふと思った。
「では、お望み通りここから出してやろう」
いきなりな出現にギョッとする。
私達のすぐ背後に、あの化け物が立っていた。あんた、いつからそこにいたのっ?
「勾玉の封印を解いてもらうためにね」
言って、そいつは笑った。
* * *
通されたのは古めかしい社。どこかで見たことがあると思っていると、祭壇にたどり着いた。
そこに知らない男の子がひとりいた。
「杉浦っ」
清水くんが近づこうとして、見えない壁に顔をぶつけてひっくりかえった。
「結界?」
砂田さんが驚いてその男の子を見る。その手には二つの勾玉が握られている。
「あなたが、『ひな』?」
砂田さんの問いかけに、初めて私達に気付いたようにその子が顔を上げた。