第5章
巫女−弐−
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 パシンッと、頬に軽く平手を感じて目を開けた。

「あ、気がついた?」

 真っ先に飛び込んできたのは砂田さんの顔。何だ、夢じゃなかったのかと思って、跳び起きた。

 で、辺りを見回す。

「ここは…?」

 そこは見慣れない場所だった。

 と言うよりは霧のようなものが立ち込めて、周囲がよく見えないのだけど、声が何だか反響しているみたいだから、きっと小さな部屋のような場所なのだと思った。

「分からない。気がついたらこんな所にいて」
「他の人は?」

 一緒にいた二人――杳さんと清水くんを思った。と、背後から声が聞こえた。

「無事だよ」

 清水くんだった。その後から杳さんも姿を現す。

 霧みたいなものの所為で、少し離れると姿が隠れてしまうらしかった。

 清水くんは気がついたばかりの私に怪我はないかと聞いてくる。案外、優しいのね。

「どうやら私達全員、あいつに捕まったみたいなの」

 砂田さんが肩をすぼめて言った。

 抵抗する間もなかった。気がつけばこの場所に飛ばされていたと言う訳だった。私と杳さんは、砂田さん達に少し遅れて。

「勾玉は…?」

 私は辺りを探す。だけどそれは間違いなく奪われている筈のものだったから、ポケットにもなかった。

「あとは封印を解く方法だけってことか」

 杳さんがつぶやいた。

「壊せばいいだけなんじゃ…」
「連中にはそれができないんだ。あれは人ではないモノを封じる護符だから。相当な力のある奴じゃないと、破壊もできないと思う」
「よく、知っているのね」

 砂田さんが杳さんに近づきながら声をかける。

「まるで竜の宮の神官か、巫女のように」
「勘ぐっても無駄。オレはそんなものじゃない」
「嘘よっ」

 砂田さんは諦めない。

「私には分かるわ。あなたには古い時代の匂いがする。私達にとても近しい者の匂いが」
「ふーん」

 杳さんはそう答えて、背を向けた。

「それで、オレがあんた達の言う通りだったとしたら、何か良いことでもあるわけ?」
「えっ?」


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