第5章
巫女−弐−
-1-

14/14


「敵の狙いが勾玉だけなら、清水くんまで捕まえないだろ? アイツは清水くんを追ってわざわざうちに来たんだ。狙いは、巫女の転生者達にもあるんじゃないのかな」

 それって、敵はハナっから約束を守るつもりはなかったってこと? だましたってこと? 許せないっ! 私、ずるい奴と嘘つきって嫌いなのよね。

「隙を見て、捕まってる子を助け出そうと考えてたんだけど。応援、呼んだ方がいいかなぁ。でもなぁ…」

 まだ頼る人がいるって言うのかしら。

 そうだ、お兄ちゃんがいた。もしお兄ちゃんが私の思っている通りのモノだったなら、絶対に助けてくれる筈。

 私は慌てて携帯を取り出す。だけど、お兄ちゃんの携帯の番号を探そうとして、その前に杳さんに止められた。

「あまり気の力が強い者がいたら、敵は出て来ないよ。竜神四天王のセーキじゃ、敵は恐れるから」

 えっ? 今、何て言いました? 誰が竜神四天王ですって? その大袈裟なネーミングは一体…。

 突っ込み所、満載だわ。恥ずかしいっ。

「とにかく、逃げるしかないか。それとも…」

 杳さんはじっと胸の辺りを押さえたままで。

 ふと、私の勾玉がバッグの中で反応するのが分かった。何だろうかと目を向けようとして、足元に影が現れたのを見た。

「美奈ちゃんっ」

 そこから、ぬぬっと現れたものは、さっきの怪しげな男の人だった。

 咄嗟に後ずさる私。だけど、あっと言う間に捕まってしまった。

「こらっ、放しなさいよっ」

 一応、暴れてみる。後ろ蹴りで股間を狙ってやったけど、簡単に避けられてしまった。ちっ。

「威勢がいい巫女だな」

 にまにま笑う顔が見えた。いやらしいっ、この痴漢野郎っ。

「竜達に連絡されても困るんでね、お前も一緒に来てもらおうか」

 化け物は、杳さんに向かって言う。

 私は、ぐいっと首を腕で締められて、息苦しくなってくる。それと同時に、さっきと同じ、耳をつんざくような奇妙な甲高い音が響いて、私は目の前がぼやけていくのを感じた。

 意識が遠のいていく中で、杳さんが心配そうに私に目を向けていたのだけがぼんやりと見えた。





<< 目次 >>