第5章
巫女−弐−
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人が周囲にたくさんいたって言うのに、誰も私達のことには気づかなかったみたいだった。みんな、知らん顔して通り過ぎていく。何で誰も何も言わないの?
何がどうなっているのか、混乱しながら私達は人込みをかき分けて逃げた。
そうして、私の手を引く杳さんがようやく立ち止まったのは、この県下随一のショッピングモールの端っこまで来てからだった。
かなり、全力疾走だったわよ。
「大丈夫?」
ベンチに腰掛けて私にそう聞いてくる杳さん。だけど、杳さんの方が、断然顔色が悪いんだけど。
「砂田さん達、どうなったの?」
逃げて来た方向に目を向けて聞く私。図らずも、置いて逃げてきたことに負い目が生じる。
「敵に捕まったに決まってるだろ」
何を分かり切ったことを言うのかと言う顔で、杳さんは棒立ちの私を見上げた。多分、私が逃げられたのは杳さんが手を引いてくれたから。じゃなきゃ、あの時眠ってしまいそうだったもの。だから、それ以上言わなかったけど。
「さて。どうしたものかな…」
杳さんは、うつむいてつぶやく。呼吸を何とか整えたい様子で。
そうだ。一人、敵に捕まっているうえに、砂田さん達も捕まって、おまけにもうひとつ勾玉を敵に取られてしまったってことになるのよね。
「この勾玉、敵に渡してしまった方が良いんじゃないですか? 最初に言っていたとおり」
「…そうなんだけど」
苦しそうな息を整えながら、杳さんは言う。
「ホント言うと、勾玉を渡しても人質は返してくれないんじゃないかって思ってる」
「ええーっ?」