第5章
巫女−弐−
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「何の判断材料もないのよ。だから勾玉を守るしかないじゃない。あの人は無責任に言ってくれるけど」
「杳さんは無責任な人じゃないよ」

 清水くんが言った。

「もうひとつの勾玉を壊してしまったって言ってた。だから自分にはその責任があるんだって。どんな経緯があったのかは話してくれなかったけど、でもオレなんかより勾玉についてはよく知っているみたいだし、それに、勾玉を持っていたってことは、仲間なんじゃない?」

 ピクリと砂田さんが肩を震わせる。

「でも彼は違うって…」
「違わないよ。仲間だよ」

 清水くんは、窓の向こうに見える杳さんの姿に目をやりながら言う。

「オレ、君達に会った時、何か感じたんだ。何て言ったらいいのかな、ずっとずっと昔の、懐かしいような、切ないような…笑うなよ」

 清水くんは私の方を見て、少しだけむくれる。

 別に私は笑ってなんかいないつもりなのに。それどころか同感しているっていうのに。

「その…杳さんに会った時も同じように感じたんだ。勾玉は共鳴し合うらしいけど、それを護る巫女達も同じなのかも知れないって…オレ、昔のことは本当に知らないけど、でも、あの人は味方で、仲間なんだと思う」

 そう、私も思い出した。初めに見た時、絶対に間違えない人だと感じたんだ。どんな遠くからでも見付けられる程の確信の持てる人。

 外見じゃなくて、その本質。

「じゃあ彼は…」

 砂田さんの顔色が変わる。

 途端、立ち上がって行こうとした。だけどその彼女は、今までその場所にはいなかったモノにぶつかった。

「えっ?」

 今までいなかったモノ――忽然と現れたその人物に声を上げたのは清水くん。

「さっきの化け物!」
「化け物とは人聞きの悪い。この身はれっきとした人間なんだぜ」

 そう言うけど、その人の身体から醸し出される妙な気が、彼を異形のモノに見せていた。砂田さんにもそう見えるのか、強ばった表情のまま後ずさる。

 その彼女の腕を取る化け物。

「そう怖がらなくてもいい。女の子に手荒なマネはしないよ。それに父竜を復活させるための大切な巫女だしね」

 もしかして、こいつが杳さんの言っていた父竜の僕?

「馬鹿なことを言わないで。勾玉は渡さない」

 言うなり、足が出る砂田さん。化け物に足蹴りを加えていた。

 ああ、だんだん美少女のイメージが崩れて行く。

「逃げるわよ」

 足蹴りで相手が一瞬怯んだ隙に、砂田さんは私の手を取った。

 そして出口に向かう。清水くんがそいつにコップの水を引っかけてから、後に続いて来た。

 杳さんがお勘定を済ませてくれていたので、本当に助かったわ。


   * * *



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