第5章
巫女−弐−
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どちらの言うことが正しいのかなんて私には分からない。だって、私には転生したなんて記憶、ないんだもの。だから、どちらの肩も持てなくて。
「じゃあいいよ。オレはどうなっても責任はとれない」
私の気持ちまで読んでしまったのか、杳さんはそう言うとすっと立ち上がった。
止めようとするのは清水くん。
「待ってくださいよ。これじゃあ杉浦を見殺しにするってことじゃないですか。あいつはその、父竜の復活を阻止するためにずっと勾玉を探して一人で旅してきたのに」
それから、私達に向かって。
「みんな、そんな仲間も助けようって思わないわけ? 何か知らないけど、昔のナンタラって名前持ち出して面白がってるだけ? 何とかしようって思わないのか?」
私、内心、驚いた。この人って、杳さんの後ろで大人しく座っているだけの役立たずだと思ってた。
「オレも昔のことなんて知らないけど、個人で守っていても遅かれ早かれ奪われるものなら、この際渡してしまって、杉浦を助けた方がこっちには得じゃないか」
「損得の問題じゃないけど」
突っ込みを入れたのは杳さん。
すると清水くんはその杳さんに向かって怒鳴る。
「杳さんがあいつと約束したんでしょ? 一週間で勾玉全部を揃えるって。もう少し頑張って説得して下さいよ。それとも関係ないからって一人で逃げる気?」
何だか分からないけど、すっごくヤバイって思った。
途端、清水くんは椅子から転げ落ちた。杳さんの平手をあびていたのだ。しかも思いっきりだったみたい。
私も砂田さんも驚いて声も出ない。
「逃げる気なら初めからここまで来たりしないよ。誰に向かって言ってるつもり?」
速攻で謝る清水くん。力関係がもう、まる分かり。
「とにかく、こいつの言う通り、あんた達の勾玉もいずれ奪われることになるのは見えてるよ。そのついでにあんた達自身も処分されるかも知れないから、気をつけてよね」
杳さんはそう言うと、伝票を持って行ってしまった。
後に残った私と砂田さん、そして清水くんは互いに顔を見合わせる。
「美奈ちゃん」
ふと、砂田さんが声をかけてくる。
「竜が復活したって言たわよね。美奈ちゃんも、君も」
砂田さんは清水くんを見る。
「ああ、青い竜だったよ。雲を呼び、雨を降らせて洪水まで巻き起こしてくれた」
「水竜の瀬緒ね。『すい』の持つ青玉を守護する竜神よ。竜は本当に復活しているの? それとも彼だけなの? 復活していても、竜神達は父竜を押さえられるの?」
「砂田さん…?」