第5章
巫女−弐−
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「信じられませんよ。ちょっと目を離すとすぐ女の子をナンパして」
待っていた人――清水碧海と名乗っていたけど――は、杳さんと私達を見るとそう言った。
実際その逆なんだけど。
言い訳するつもりもないらしく、杳さんは黙ってその人のために飲み物を頼んでいた。出世払いがどうとか言ってるけど、何のことかな。
「緊急切迫しているんで、単刀直入に言うけど驚かないでよね」
杳さんはそう前置きして、話を始めた。
「『竜の勾玉』がこの世に五つあることは知っている? 勾玉の封印を解くと父竜が復活することは?」
私と砂田さんは顔を見合わせる。
「勾玉の五つのうち二つが父竜の僕(しもべ)のひとりに奪われてしまったんだ。竜の宮の巫女の転生者のひとりと一緒にね。その子と引き換えに、勾玉を渡すことになったんだ」
「ちょーっと待って」
何だか結論づけられた説明に、砂田さんが声を上げた。
「巫女って…?」
「オレは実際には会ったことがないけど、こいつの話だと『ひな』と名乗ったってさ」
砂田さんは息を呑む。
「『ひな』ですって? 本当にそう言ったの?」
砂田さんは杳さんの連れに目を向ける。彼は自信なさそうにうなずいていた。
「どうかしたの?」
意味がさっぱり分からないでいる私は、小さな声で砂田さんに尋ねる。その私にゆっくりと振り向く。
「『ひな』は南の門を守護する赤玉の巫女。西の巫女『きえ』、北の巫女『るり』、みんな…最後の竜の宮の巫女達よ。これは偶然?」
私に聞かれたって分かるわけないじゃない。困っている私の代わりに答えてくれた人。
「オレ、竜を見たことがあるよ」
言ったのは清水くん。
「竜のことはさておいて」
杳さんがさらっと話題を変える。清水くんがちょっと憮然としていたけど、杳さんはそれを無視した。
「と言うわけで、捕まっているヤツを助けないといけないんだ。手を貸してくれるだろ? あんた達の仲間みたいだし」
私と砂田さんは、杳さんを見遣る。あなたも仲間じゃないのかと。その表情を読み取ってか、杳さんは軽く言い放つ。
「こいつ、あんた達の仲間だと思うんだけど?」
杳さんは、隣に座っていた清水くんを指さす。
気がつかなかったけど、さっきから何か反応していたのよね。私の勾玉が。
私は砂田さんと顔を見合わせてから、ふて腐れてパフェを食べている彼を見遣った。
いつの間に注文したのかしら。
私達の視線を感じたのか、清水くんは顔を上げた。
「何?」