第5章
巫女−弐−
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「家に行ったら、ショッピングに出てるって言われたから。ちょっと頼みたいことがあるんだけど」

 何なの、この人。

 私はその手を振り払う。

「あんたの持ってる勾玉が欲しいんだ」

 その人の言った言葉に私は勿論のこと、砂田さんも目を剥いていた。

 こんなのあり?


   * * *


 立ち話も何だからと、私達は結局パーラーに戻ることになった。

 その人は葵杳と名乗った。この人も、砂田さんと同じ高校三年生なんだって。受験生って、結構暇なのかしら。

 で、杳さんは訳があって勾玉が欲しいんだって。しかも、私の持っている竜の勾玉をと言う。

 私と砂田さんは顔を見合わせる。

「その訳とやらを聞かせてくれないかしら。私も力にならないこともないけど」

 砂田さんの言っているのは、自分の持っている勾玉のことだと思う。勾玉が欲しいのなら、砂田さんの勾玉もその目的のひとつなのかも知れない。

 杳さんは砂田さんの提言に、しばらく考える様子を見せる。

 砂田さんはこの杳さんをどう見ているんだろうか。もしかして『仲間』だと思っているのかな。

「言って信じてもらえるかどうか…」
「これに触ってくれたら信じないこともないけど」

 また例のポーチを取り出す。懲りない人ね、この砂田さんも。

 だけど私も知りたくなった。初めて会った時の感情が何なのか。

 だから私も加勢する。

「そうよね。それくらいの勇気がないのに、私の勾玉を貸してもらおうなんて図々しいわよね」
「やっぱり持ってるんだ?」

 語るに落ちたのは、私の方だったみたい。っていうか、墓穴?

「さっきから見てたんだよ。実は」

 杳さんは少しだけ悪戯っぽそうな目を見せた。そして砂田さんの持つポーチを指さす。

「それも、勾玉だよね」

 私も砂田さんも驚くばかりだった。

 この人ってば、何者? だけど驚いている時間は砂田さんの方が短かった。

「欲しいって、使い方でも知ってるって言うの?」
「本当の使い方なんて誰も知らないよ」

 砂田さんの表情が強ばる。

「知らないのに、何に使おうって言うの? まさか敵の…」

 砂田さんはポーチを手に取り戻す。何か緊張した空気が漂っていた。

 そんな雰囲気の中で、先に両手を挙げて降参したのは杳さんの方だった。

「ゴメン、できたら関わらない方がいいと思ったんだけど、納得いかないみたいだね。分かった、話すよ」

 杳さんは肩をすくめながら言った。ポーチを抱えた砂田さんに苦笑を向けながら。

「話す前に、もう一人会ってもらいたい奴がいるんだけど」

 杳さんはそう言って、パーラーの窓から見えるさっきまで彼が座っていたベンチを指さす。

 本当に人と待ち合わせをしていたらしかった。そこには杳さんの姿を捜しているらしい人影があった。かなり、途方に暮れた様子で。


   * * *



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