第5章
巫女−弐−
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「捜すって言ってもね」
パーラーを出ると、ショッピングモールの中は人でごった返していた。外は秋の風が吹いているのだろう、コート姿の人もちらほら見られた。新しいコートが欲しいなとぼんやり考えていると、砂田さんが小さく声を上げた。
「あの人――!」
砂田さんの指さす方向に顔を向けると、さっき人込みで擦れ違った人がいた。とても印象的だった、あの人だ。
その人は、ベンチに腰掛けて、携帯を画面を見ていた。誰かを待ってでもいるのか。
それは、行き交う人々の波の中にあって、何だかとても不釣り合いに見えたのはどうしてなんだろう。
私がそんなことを考えてぼーっと見ている間に、砂田さんはつかつかとその人に向かって歩いて行った。
「失礼ですけど、おひとりですか? ちょっとお茶でもしませんか?」
何の勧誘よ、それ。私は慌てて砂田さんを引き留めた。
が、既に遅かったみたい。
「あんた誰?」
その人は砂田さんをジロリと見遣ってから、うさん臭そうに聞いてきた。
私は一瞬気後れする。
砂田さんもかなり美人だけど、この人――多分男の子だと思うけど――、ムチャ奇麗なんだけど?
でもって、砂田さんと並ぶと絵になるのよ、これが。
「突然ですけど、これに触ってください」
砂田さんがそう言ってその人に差し出したのは、さっきまで私達の話題の中心にあった勾玉を入れたポーチだった。
それじゃあ怪しい新興宗教のようだと思った。
「悪いけど、人と待ち合わせしているんだ」
「ちょっとだけでいいですから」
その人、露骨に嫌そうな顔しているのに、砂田さんは引き下がらない。
「砂田さん、やめておこうよ。ね」
「美奈ちゃんもそう思うでしょ? この人、私達の仲間よ」
やっぱり砂田さんは思い込みが激しいんだと思う。でも、私に同意を求めないでもらいたい。
「分かったから行こう」
「あれ?」
ふと、その人が私に声をかけてきた。
「美奈ちゃんって、もしかして静川美奈ちゃん?」
思いっきり驚いた。驚いた表情をそのまま向けると、その人はおかしそうに笑い出した。
「兄貴によく似てるって言われない?」
失礼なっ。あんなのより私はずーっと美人のつもりなのに。そう言うと、その人、また笑った。
ムッときて、気がついたら私ってば、その人の頬をひっぱたいていた。
しまったと思ったけど、後の祭りだった。
私の平手は結構痛いらしい。その人はその場にしゃがみこむくらいに痛がっていた。
頬を真っ赤に腫らした顔はちょっと気の毒かなとも思ったけれど、女の子を笑いものにするなんて、屑のすることだと言ってしまって、また後悔。
初めて会った瞬間に言いたかったことは、もっと他にあった筈なのに。
気を取り直して、おずおずと聞いてみる。
「あの…お兄ちゃんの知り合いですか?」
近くで見ると、お兄ちゃんより年下に見える。と言うより私の同級ってくらいの年だと思うんだけど。
「うん、ちょっとね。それより、あんたを捜してたんだ」
その人はそう言って、いきなり私の腕をつかんだ。