第5章
巫女−弐−
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 態度の一変した砂田さんは、そこからは饒舌になった。

 私と同じように持ち歩いていた勾玉をそっと見せてくれた。

 それは私の持っていたものとは若干の色合いを異にする以外は、大きさも形もそっくりだった。

 私の勾玉は白っぽいけれど、砂田さんのものは黒っぽく見えた。

「信じられない。本当に仲間がいたなんて」

 砂田さんはそう言って両手を胸の前で組む。その仕草が妙に幼く見えたけど、実際は私より一つ年上なんだって。ってことは、高校3年生よね。

「本当はずっと捜してたのよ。勾玉がまだこの世に残っていることは知っていたけど、巫女の転生者がいたなんて、すっごくラッキーかも」

 ちょっと待って欲しい。私には何が何だかちっとも分からない。

 そう答えると、砂田さんはコホンと咳ばらいをしてから、椅子に座り直した。

 そして、興奮してゴメンと謝った後、教えてくれた。

「私はこの勾玉を祀っていた竜の宮の巫女のひとり、『るり』の転生者。竜達が滅んでしまった時代の、最後の巫女だったわ。あなたも私の仲間の巫女の転生者よ」

 いきなりそんなこと言われても困る。そう言ったら砂田さんはくすくす笑っていた。

「いずれ思い出すことになると思うわ。でもね、証拠ならあるわ。あなたの持っている勾玉」

 言われて私はギョッとする。私、見せてない。

「あなたに反応しているでしょ? 私の持っている物とも共鳴しているみたいだし」

 これは地上にたった五つしかない物だと言う。何とも不思議な力を持ち、その保持者さえも自分で選ぶのだと、砂田さんは冗談めかして言った。

「巫女はそれまで幾人もいた筈なのに、同じ時代の者が同じように転生するなんて偶然にしても出来過ぎているわね。何かあるのかしら」

 そんなこと、私に聞かれたって知る訳ないじゃない。

 でも、何だか興味がそそられる。

 知らん顔していればそれで済むことの筈なのに、気がつけば私は砂田さんの言葉に耳を傾けていた。

 それはあのお寺で見たアナコンダと、そして夜空を舞った青い竜を実際に目にしていたからかも知れない。

「とにかく、私、俄然ファイトが沸いてきたわ」

 何が? と、立ち上がって握りこぶしして見せる砂田さんを見上げて聞いた。

「決まっているでしょ? 仲間を捜すのよ」
「はぁ…」
「ロマンよ。古代の記憶をたどってロマンを追い求めるの。わくわくしてくるでしょ?」

 夢見る少女か、単なる思い込みの激しい馬鹿か、見極めるのに困難しそうだった。

 でも、偶然出会った街角で、この人は私を見極めたのかも知れない。


   * * *



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