第5章
巫女−弐−
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それは去年の秋、古い寺で手にしたいにしえのお守りだった。
不気味な大蛇に守られたそれを、私はちょっとした経緯で手に入れた。
お兄ちゃんはこれを西の門を守るための護符だと言うけれど、それをちゃっかり持ってきてしまった私。
その勾玉が、鞄の中で淡い光を放っていたのだった。私は辺りを見回した。
勾玉のこの明滅が、まるで何かに共鳴でもしているように思えたから。その何かが近くにいることを感じ取って。
怪しいと思えたら誰だって怪しいものなのね。
隣で新聞読んでいるおじさんだって、カウンターで女の子とふざけあっている茶髪のお兄さんだって、ウエイトレスのアルバイトの人だって。
それに私の目の前にいるこの子だって。
見るといきなり目が合った。彼女の目がさっきより険しくなているような気がした。
「あなた、一体…誰?」
途端、何かがシンクロする感じ。
何なの、この感じ。懐かしいような、切ないような、不思議な感情が私の中に流れ込んできた。
それが何なのか探り当てようと感情の腕を伸ばしかけた時、ふっと、その感情の波が消えうせた。
訳が分からず頭を振る私に、砂田百合子は先程迄とはうって変わって柔らかに声をかけてきた。
「私の勾玉が反応していたのは、あなただったのね」
「勾玉…?」
私は彼女に目を向けた。さっきまでのつんけんした顔とは違って、笑うと同性の私ですら見とれてしまうくらいの美少女だった。
「私の勾玉が教えてくれた。あなたは白玉の巫女、『きえ』。違うかしら?」
「はあ?」
言っている意味、分かんないんですけど?
美人の向ける笑顔に、私は顔を引きつらせた。
* * *