第5章
巫女−弐−
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遠くからでもきっとすぐに見付けられると思う。そんな人だった。
通り過ぎてしまったのはあまりにも私が不用心すぎた所為。
あっと言う間にその人は、ありふれた人間の波に飲まれてしまった。
その跡をぼんやり見ていた私は、いきなり後ろからぶつかられた。
何奴かと振り返って見たそこに、長い黒髪、白い肌、大きな瞳が印象的な、一言で言って美少女が立っていた。
彼女はぶつかった拍子にひっくりこけた私など無視して、そのまま駆けて行こうとした。ムッとした私は思わず長いおみ足を伸ばし、彼女の足を引っかけてやったわ。
「きゃーっ」
私と同じようにフロアに転がった美少女。
人込みの中、偶然か必然か、それが私達の出会いだった。
* * *
数分後、私達は近くのパーラーで顔を突き合わせて座っていた。
別に、一緒に入った訳じゃないわよ。一緒にショッピングに来た由加が先に帰っちゃって、小腹がすいたから、一人で寂しくパフェでも食べようと思って入った店に、この女がやってきただけ。
私の顔を見ると、いきなり因縁をつけてきた。
「あなたの所為でせっかくのチャンスを逃してしまったじゃないの。どーしてくれるの」
彼女はその外見からは似合わない、鬼のような表情で私に食ってかかってきた。美人って、怒ると怖い顔するのね。
それにしてもよく言うわ。自分からぶつかって来たくせに。
言い返してやると、さすがに神妙になる。
「あれは、急いでいたから…。どうしても、あの人と話がしてみたかったから」
ふうん。訳ありか。
私の好奇心がむくむくと頭をもたげてくる。そんな私の表情を読み取ったのか、彼女――砂田百合子(すなだゆりこ)と名乗った美少女――はわざとらしくそっぽを向いた。
「あなたには関係ないけどね」
「あーっそう」
自慢じゃないけど、私って結構気が短かかったりする。
私は目の前のジュースをとっとと飲み干して、立ち上がった。パフェは完食していた。そして鞄を開け、自分の勘定だけは払おうと財布を探した。
その時。
鞄の中で、ほのかに、僅かに光を放つものが目に入った。白く光る『勾玉』だった。