第4章
巫女−壱−
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「何で俺が預からなきゃならないんだ? 知るか」
静川さんも、ちょっと酷い。ほとんど見ず知らずと言えないこともないけど、そんなに二人そろってオレを邪魔者みたいに言わなくてもいいと思う。
「オレ、頼んでるんじゃないんだけど。あんたの役目だろ? 青玉の神子を守るってのは」
そう言った杳さんを、静川さんは怖い目で見たままだ。だけど、ふと気づいたことがある。静川さんは本気で怒っている訳じゃないんだって。なんて言うか、本気の気が伝わらないって言うか。
それに、オレ達に会うのが嫌なら、居留守でも何でも使えばいい。杳さんが電話してから30分は経っているんだから、どうとでもなるだろう。それなのに、肌寒くなってきた空の下で、オレ達の話に付き合ってくれているんだから。
まあ、家の中へ入れてくれないってことは、歓迎もされていないって事なんだろうけど。
「俺の知ったことじゃない」
「そんなこと言って、ホントは気になってるくせに」
「誰がだっ」
舌打ちして怒鳴る。
「第一、俺なんかより竜王の方がいいだろう。あいつに頼め。お前の頼みなら、ホイホイ聞くだろう」
「今いないんだよ。セーキなら暇にしてると思ったし」
あ、青筋が。
なのに杳さんは気づいていないのか、どうなのか。
「帰れ。俺は忙しい」
静川さんはとうとう背を向けてしまった。その背に向かって、杳さんは尚も言葉を続ける。
「じゃあ、勾玉を渡してよ」
静川さんの足が止まる。顔を半分だけこちらに向ける。その顔はやっぱり睨んでいたけど。
「何のことだ? 勾玉は竜王が破壊しただろう」
えっと思って、オレは杳さんを見る。勾玉のひとつが消滅しているとは、さっきの化け物に杳さんが言っていたことだけど、本当だったんだ。
でも、それにしても竜王が破壊したって、どういうことなんだろうか。
「それのことじゃない。他の勾玉だよ。持ってるのは知ってるんだ。さっきも言ったと思うけど、勾玉を集めてるんだよ」
「知るか」
「またそんなこと。どうせセーキが持ってても使えないんだから、オレ達に渡してよ」
静川さんは、チラリとオレを見やる。
「お前、青玉を持たせただろう?」
言われて、慌てて返す。
杳さんは人に頼み事をするのは余りにも下手で、オレが頑張んなきゃって思って、言葉を選ぶ。杉浦を助け出さないといけないと言う使命感も加わっていた。
「持っていたんですけど、勾玉を集めて守ろうとしている奴がいて、そいつに渡してやったんです。オレが持っているよりは良いかと思って。でも、そいつが敵に掴まってしまって、そいつを助け出す為に、残りの勾玉を探さなきゃならないんです」
交換で敵に勾玉を渡してしまうって言うのは、黙っておこうと思った。言えばきっと静川さんはくれないだろうと思ったので。