第4章
巫女−壱−
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「ここ…ですか?」
もうそろそろ吐いてもいいかと思う程に追い詰められた状態でようやく到着したのは、確か駅から杳さんの家へ行く途中で通った場所だった。
一枚の面積が信じられないくらい広い田圃が延々と続く。ここは明治時代にできた干拓地なのだそうである。その中にある分譲っぽい住宅が並ぶ中のひとつの家の前で、杳さんはバイクを止めた。
「セーキのうちだよ。ここでかくまってもらってなよ」
「はあ?」
そう言えば、さっき、保護しろって静川さんに電話で言っていたようだったけど。
確かにあの化け物に追いかけられはしたが、それは勾玉を持っていたからであって、今は持っていないんだから全然平気なんだけど。そう言おうとしたけど、杳さんはもう既にチャイムを押していた。
そして、玄関のドアが開いて、見覚えのある顔が出て来た。それは、去年の夏にあの水無瀬村で出会った静川さんだった。
…多分。ホント言うと、あまり顔は覚えていなかったけど。
「何の用だ?」
さっき電話をしていたので、来ることくらい予想していたのだろう。インターホンも使わずに出て来た静川さんは、杳さんの顔を見やって、すごく嫌そうな顔をした。
それなのに、杳さんは静川さんの表情など全く意に介した様子もなかった。
「何の用かはごあいさつじゃない? 旧知の友が訪ねてきたってのに」
「お前と友達になった覚えはないがな」
言ってから、静川さんはその時になってようやくオレの存在に気づいたように目を向けて、また、眉の根を寄せた。
「清水か…」
旧知の友とはとても言えないけど、覚えてくれていたことに少し安心する。謙虚なオレ。それなのに、杳さんってば。
「覚えてたなら話が早い。こいつ、ちょっと預かってくれない?」
「ああ?」
静川さんは杳さんにものすごく怖い顔を向ける。もしかして静川さんって、杳さんのことが嫌いなのかな。ま、こんな尊大な口を利くんだから、仕方ないか。
「敵に追われてるんだけど、こんなの連れてちゃ、ウザイから」
それはないんじゃないだろうか。オレは思わずそう言った杳さんの顔をマジマジと見てしまった。