第4章
巫女−壱−
-3-
2/5
「じゃあさ、こいつ、そっちに連れて行くから、保護してよ」
こいつって、オレのこと?
「えー。だって今、協力してくれるって…あーもうっ、そんなイケズなこと言ってると、本気でバラすよ。オレ、あんたの通ってる大学だって知ってんだから」
だから杳さん、その言い方はちょっと…。
思った通り、とうとう電話を切られたらしい。当たり前だ。
それなのにちっとも悪びれた様子も見せず、杳さんはオレに目を向ける。
「セーキって、短気だから」
いやいや、それは違うって。オレは返せずに、「はあ」とだけ答えておいた。
「仕方ない。行ってみるか。どうせ勾玉のうちのひとつはセーキのうちにあるんだし」
言って杳さんは携帯をポケットにしまって、立ち上がった。
それにしても、この二人って知り合い…なんだよな? 年も違うし、家も近いって程には近くないし。バイクではひとっ走りらしいけど。でも、どういう知り合いなんだろうか。
高校の先輩とか?
オレが不思議そうに杳さんの顔を見ていると、すぐに答えてくれた。この人、人の心が読めるのだろうか。
「セーキは仲間――戦友かな。一緒に戦ったし」
戦う? 何と? 何で?
意味が分からないという顔を向けると、杳さんは教えてくれた。
「清水くんが聞かされた話ってね、あれで終わったんじゃないんだ。あみやが死んで、竜達は滅びたんだけど。でもまた彼らは生まれ変わったんだ。人として、現代にね」
「え…ええーっ!?」
それじゃあ何? やっぱりオレが見た竜は本物で、その正体はもしかしてもしかすると。
「清水くんが出会ったのは、水竜の瀬緒だよ」
唖然とするオレ。だってだって。
信じられない思いと、見てしまった現実が交錯する。
人が竜だなんて、何おとぎばなしみたいな事って思うけど、オレは実際に竜を見たんだ。
そして杳さんはもうひとつオレに教えてくれた。
「水竜の守護する宮の最後の巫女はね、『すい』って言う名前だったんだ」
オレはそう言った杳さんを驚いて見やった。
もし杉浦がオレなんかじゃなくて、もっと早くにこの人に出会っていたら、勾玉の全てをもっと早くに手に入れれて、敵に掴まることもなかったかも知れない。漠然と、そう思わされた。
* * *
「あいつは…いないよな」
玄関から出て、思わず身構えるオレ。
杳さんは片付けたばかりのバイクを、また引っ張り出してくる。思うけど、これくらい大きいバイクだと、押すだけでもものすごく力がいるんじゃないだろうか。その細い腕のどこにそんな筋力があるんだろう。
「結界を出るから、ここから先は危険だけど、覚悟はいい?」
バイクにエンジンをかけながら、杳さんが聞いてきた。
「大丈夫です。元はオレが杳さんを巻き込んだんだし」
「そう?」
それ以上聞かないこの人は、何を知っていて、何を抱えているのだろうか。
ぼんやり見ていると、奇麗な顔がオレに向けられて、少し悪戯っぽそうに笑った。
「じゃあ、後ろに乗って。今度こそ吐いても知らないから」
…分かってたんだ、この人はっ。分かっていてあの運転かっ!?
だけど何故かこの人には逆らえないものがあって、オレは言われるままにバイクの後ろにまたがった。
思いっきり、覚悟を決めて。
* * *