第4章
巫女−壱−
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「勾玉を集めてみせるって、何かアテがあるんですか?」

 化け物が去った後、そう聞くオレには答えず、杳さんは黙って家の中へ入って行った。オレも慌ててその後を追いかけた。

 杳さんは、二階に上がろうと階段の下まで来て、しばらく考えた後、そのまま上へ上がらずに、また居間へ戻っていった。

 一人掛けのソファに座り込むと、ポケットの中から携帯を取り出した。それを手早く操作してから、チラリとオレを見やった。

「あんたも知ってる奴だよ…っと…もしもし」

 早口にオレに言ってから、電話の相手が出たらしい。オレの知っている奴って、ここでは葵翔くらいしかいないけど。

「葵と言いますが、セーキさん、いますか?」

 「セーキ」なんて知り合いはいないんだけどと、首を傾げるオレ。それに気づいて、杳さんは言う。

「静川聖輝。知ってるだろ? さっき、あんたの言ってた大学生」

 はっとする。そうだ、そんな名前だった。

 でも、何で杳さんと静川さんが知り合いなんだろうか。って言うか、こんな偶然あっていいもの?

 驚いているオレに、杳さんは小さく笑ってみせただけだった。

「あ、セーキ? オレだよ、オレオレ。…あーちょっと、オレオレ詐欺じゃないって。バカッ、切るな」

 何やってんだか。普通、「オレオレ」で通じるのは家族くらいのものだと思うけど。それか、よっぽど親しい友人だけだろう。

「セーキってさ、去年の夏、勾玉を見つけた? 長野の秘境探検ごっこに行って」

 秘境探検ごっこって…。もう少し言葉を選んだ方がいいんじゃないかと思うよ、オレは。

 静川さんに会ったのは、去年のあの時だけだったけど、結構、お堅い感じっぽく見えた。だからきっと、「それがどうした?」とか、物凄く機嫌が悪そうに聞いているんだと思う。でも、杳さんの口調が変わらないから、違うのかな。

「その時に世話になったって言う少年Aが、今うちにいるんだけどさ。セーキのこと、竜だって言ってるんだけど、一体、何やらかしたの?」

 「お前には関係ない」とか、静川さんなら返しそうだ。

「いいのかなぁ、そんな口利いて。オレ、知ってること、セーキの家族にバラすかも」

 その言葉は明かに脅しだと思うんだけど。何故ゆえに静川さんを?

 そして、静川さんは憎々しげに言ってくるんだろうな。「何が目的だ?」って。

「訳あってね、竜の勾玉、探してる。ちょっと手伝って欲しいんだけど」

 杳さん、革張りのソファに踏ん反り返って、足を組んでのその台詞は、静川さんじゃなくてもキレると思うけど。

 案の定、こちらの様子が伝わったのか、杳さんは携帯を耳から遠ざけた。静川さんが怒鳴っているんだろう。これ、人に物を頼む時の態度じゃないだろうって。オレもそう思う。そんなのでは協力してくれるものも協力してくれなくなるって。

 この人、人付き合いが下手なんだろうか。

 それなのに、一通り怒鳴ってから、「まあ、仕方ない」とか言ったみたいなんだ、あの静川さんが。


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