第4章
巫女−壱−
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オレの話に静川さんは、眉間の皺を深くする。
「敵は何者だ? 父竜か?」
「多分ね。出てきたのは、鳳凰(ほうおう)の配下クラスだと思うけど」
さらりと答える杳さん。鳳凰って、何だろうか。
「鳳凰? 封じたと聞いたが?」
「青雀はね。今回のは朱雀だよ。あいつら、手分けして勾玉を狙ってたみたいだ」
舌打ちするのは、何に対してなんだろうか。静川さんは怖い顔のまま、今度はちゃんと振り返る。
「俺は持っていない。勾玉は俺には扱えんからな。妹の美奈が持っている」
ああ、自分の妹が持っているなら、他を寄せ付けたくない気持ちはあるかも知れない。
「その子、巫女?」
「さあな。自分で確かめてみろ」
静川さんのその言葉に、杳さんはふわりと笑った。思わず顔を逸らしている静川さんの気持ちが分かるような気がする。これだけの美人に微笑まれると、同性でも赤くなるもんだよな。
「ありがと。で、その美奈ちゃんって、今どこ?」
静川さんの態度がやんわりと変わったのに気づいているのか、いないのか、杳さんは変わらない口調で尋ねる。
「友達と買い物に行くとか言って、出掛けた」
「どこへ?」
「そこまで知るか。ついでに映画も観て帰るとか言ってはいたがな」
「何の映画?」
「さあな。アイツは手当たり次第だからな」
表面上は機嫌が悪そうに振る舞っているのに、杳さんの質問にスラスラ答えてくれ始めた静川さん。間違いなく、さっきの微笑みが聞いたんだろうなぁ。
結局、知っていることを全部教えてくれたけど、妹の美奈って子の外出先は分からなかった。携帯にも繋がらなかったし。
「帰ってくるまで待たせてもらいますか?」
そう尋ねると、杳さんは意外そうに振り返る。
「捜しに行くよ。清水くん、ここに残る?」
それはもう、当然にのように言ってきた。そんな杳さんを、大人しく待っているのは苦手だからと、静川さんがこっそり苦笑を浮かべるのが見えた。
そうだよな。杳さんって押せ押せタイプだよなって、今日初めて会ったオレでも分かってしまう。
「オレも行きます。杉浦のこともあるし」
さっきはウザイとか言われたけど、オレにだってプライドはある。少なくともオレより細っこい杳さんを、一人で行かせる訳にはいかないじゃないか。
「分かった。連れてってやるよ。その代わり、足手まといになるようだったら、さっさと捨てていくからな」
余りにも酷い言葉をオレに向けて、それでも杳さんは笑った。
今日初めて会ったばかりの人なのに、態度も口調も尊大なのに、人を引き付けてやまない。目が離せなくなる。不思議な人だと思った。
その理由が何なのか、オレはとても知りたくなっていた。
そして、オレ達は、杳さんが目星をつけたショッピングモールに向かうことになって、オレは死ぬ覚悟でバイクの後ろに乗った。
そこで会えるだろう仲間に、少しだけ胸が躍る思いを抱えて。