第4章
巫女−壱−
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それよりも気になるのは杉浦の方だった。
オレの計算ではもっと早くにここへ来ていてもいい筈なのに。
「だよなぁ。1時過ぎ到着の新幹線だったら、いくら何でもそろそろ着いてもいい頃だよ」
杳さんは柱時計を見上げながら、オレの言葉に相槌を打った。
駅地下の商店街に書店がある。そこで住宅地図を確認してバスを選ぶのに30分とかからない筈。接続が悪くて1時間待ちをしたとしても、バスで1時間弱の筈だ。そう考えると、次のバスで来なければ本当に何かあったのだと疑った方がいい。杳さんはそう言う。
次のバスは30分後だから、その頃にバス停まで行ってみることになった。
「あの…杳さん、聞いていいですか?」
オレは少し気分の良くなったところで、ずっと気になっていたことを口にした。
「杳さんはオレの話、信じてくれているんですか?」
「…」
無言で睨まれた。怒らせたと思った。喜怒哀楽のはっきりした人らしく、思いっきり嫌な顔をされた。
「信じてなきゃ、見ず知らずの人間を家に入れる訳ないだろ。そのくらい分かんない?」
「ごめんなさいっ」
速攻、謝っていた。
後になって思えば、この時からこの人には絶対に頭が上がらないようになっていたのだろう。
が、素直に謝罪の言葉を聞くと、杳さんはころりと口調も態度も変えてくる。
疲れる人だ。
「ところで、オレの方もひとつ聞きたいんだけど、その杉浦って子は綺羅の巫女の生まれ変わりだって言ってたよね。清水くんは誰でもないんだ?」
「えっ、はい」
と思う。だけど、こう度々念を押されると、小心者のオレは自分でも自信がなくなる。
実際杉浦の話だと、勾玉は巫女の手にあって初めてその力を発揮すると言う。
あの青玉がオレが持つことで輝いていたのだとしたら、オレは何になるのだろうか。
そう言うと、杳さんはかすかに笑った。
「青玉の巫女『すい』、それが多分清水くんの名前だと思う」
信じられないような事を言ってくる杳さん。驚くオレに、杳さんは柔らかな笑みを崩さずに続けた。
「人の魂には形があって、それは幾度生まれ変わろうと本質だけは変わることはないんだ。不思議だろ、オレにはそれが見えるんだ。葵の血は巫女の傍系の末端でしかないのに」
そんな事を言うこの人って、一体――。
聞き返そうとしたその時、杳さんの表情が一変した。
「着いたみたい」
「ほんと?」
時計を見るとまだ少し早い気もする。すると杳さんは付け加えた。
「多分、敵がね」
ギョッとした。
* * *