第4章
巫女−壱−
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もう少し手加減してくれたらいいじゃないかっ。心の中でオレは叫んでいた。
思いっきり後悔したのは、それから五分も経たない、国道をつっ走り始めた時のことだった。
大型のダンプカーの脇をすれすれにカッ飛ばしてくれるんだ、この人は。
奇麗な顔にぜんっぜん似合わない果てしなく荒い運転に、オレは迂闊にも気を失いそうになった。
どこをどう走ったのか分からないけど、目的地に到着した時にはここは天国かと思える程、嬉しかった。
「無理することないのに」
杳さんはちっとも悪びれた様子はなかった。
これがこの人のやり方なのだろうと思った。
「まだ、来ていないみたいだね」
玄関に人気のないのを見て、杳さんはバイクを車庫に引っ張って行った。
オレは玄関にへたりこんだまま、動けなかった。
杳さんが引き上げてくれなかったら、きっと朝まで人の家の玄関先で倒れ込んでいただろう。ひどい話だった。
「ここの家の前を通るバスはこの時間だと1時間に1本くらいかな。国道から外れてるからね」
それでも、オレの為に冷たい水を出してくれるところは、決して悪い人じゃないんだな。
「次のバスの時間、見て来ようか」
杳さんが立ち上がるのを見てついて行こうとするが、天井が回っていた。
「しばらく寝てた方がいいよ。きっと福井から来て疲れたんだ」
それは違うと言おうとして、その気力もなかった。
杳さんはオレをそのまま休ませてくれて、自分はすぐ近くにあるというバス停まで時刻表を見に行った。
杳さんが出て行った後、オレはポツンと家に取り残された。
どうやら客間に通されたらしく、そこにあるきれいに整った調度品は家人のセンスを伺わせた。
葵は不自由なく暮らしているのだろうと分かった。
あまりにも不幸なことがあったから、どうなっているのか多少の心配はしていたのだけど、あの無神経っぽいけど本当は、困っている人は放っておけないタイプの従兄もいることだし。
安心したのと、やっぱり疲れたのとでオレはいつの間にか眠ってしまったらしかった。と言ってもほんの十分足らずのうたた寝程度のものだったけど。
目を覚ますと杳さんが帰って来ていた。
「疲れたなら二階に上がって休むといいよ。翔くんの兄さん用の部屋、空いてるから」
そんな訳にはいかないと、オレは起き上がる。
乗り物酔いも随分楽になっていた。
「杉浦は…」
「まだ来てないみたい。来たら起こしてやるから、ベッドで寝てれば?」
「いいえ」
この上ベッドまで借りたのでは、あんまり図々し過ぎる。
オレはシャンと背筋を伸ばして立ち上がった。