第4話
巫女−壱−
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次の日は幸か不幸か土曜日だった。
休みの日はゆっくり昼まで寝るのがオレの楽しみだったのに、杉浦は元気にオレを起こしてくれた。
10時過ぎの特急に乗ると京都での新幹線の乗り継ぎが便利だと言うから、こいつを後ろの荷台に乗せて、オレは駅まで猛スピードで自転車をこいだ。
信じらんねぇって。オレって付き合いが良すぎるよ。
「ありがとう。君に会えて良かったよ」
列車のホームで、汗だくのオレに、杉浦は爽やかそう言ってほほ笑んだ。
このまま本当に一人で行かせてしまっていいのだろうか。何故だか分からないけど無性に心配になってきた。
思うと途端に口から出て来た。
「…大丈夫なのか?」
「えっ?」
「いや、その、無事に行けるかなって思って」
「平気だよ。大体県都の駅前とかにある本屋にはその県の住宅地図が並んでいるものなんだよ」
永の経験で得た知識だと言う。
「そうじゃなくて、昨日のヤツとか出て来たりしたらどうするのかと思ってさ」
オレの言葉に杉浦は笑って見せた。
「心配してくれてありがとう。でも平気だ。今までだってずっと逃げおおせてきたんだもの」
「そう、なのか?」
「うん」
そうこうしている間に、杉浦が乗るべき列車がホームに滑り込んで来た。
キリキリという金属音と撒き散らされる金粉とにオレは眉をしかめる。
「じゃあ、お世話になりました」
ペコリと頭を下げ、杉浦は列車に乗り込んだ。
昨日出会ったばっかりで、大して何も言ってやれる言葉が見つからないまま、そのうちにドアが閉まった。
「おい…」
せめて気をつけろと言い忘れて、走り出した列車に向かって駆け出そうとしたその時、杉浦の乗った列車の別の窓に昨日のヤツが乗っているのを見付けた。
「あいつ…」
やばい。
杉浦に知らせようと追いかけるが、列車は次第にスピードを上げていくだけだった。
そしてとうとうオレはホームの端まで来て、その列車を見送る人となった。
無事だと、いいんだけど。