第4章
巫女−壱−
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「その人は今どこにいるの?」

 必死なのは分かるけど、オレの胸倉をつかみ上げることはないだろうと言ってやると、杉浦は恥ずかしそうに手を引っ込めた。

 可愛いヤツなんて思ってしまうオレって、ちょっとヤバイかも。

「高校入ってすぐくらいに家が火事になって、学校へ行っていた葵と東京の大学に行ってたお兄さんだけが生き残ったんだ。両親もじいさんばあさんもみんな亡くなって、今は岡山の叔父さんちに引き取られてるよ。火事だったからもう何も残ってなかったみたいだけど」

 大変だったんだ、あの時は。全焼で、本当に何ひとつ残らなくて。いつも余裕をかましてる葵が、言葉もなく立ち尽くしていたのが今でも思い浮かぶ。

「訪ねてみるか? 暑中見舞いが来てたと思うけど」

 すっかり杉浦のペースにはめられてしまっていることに気付かず、オレはいそいそと状差しから葉書を探し出す。そして杉浦に見せる。

 葵らしい几帳面な文字が真っすぐに並ぶその葉書を手にして、杉浦は自分のリュックの中から手帳を取り出した。

「真面目そうな子だね」

 杉浦は住所を控えながら言った。

 そりゃそうだろう、優等生の委員長さんだったからと冗談めかして答えると、杉浦は成程とうなずいていた。

 杉浦は住所を手帳に写し終わると、オレに葉書を返す。

「ありがとう。この葵くんに会えば、残りの物のどれかに当たれるかもしれない。それにしても、岡山か…」

 手帳を自分のリュックにしまい終わると、杉浦は少し考えるふうに呟いた。

「何?
「うん…僕の記憶によれば、僕と同時代の綺羅の巫女『あみや』がいたのが、古代吉備の国、今で言う岡山なんだよ」
「あみや?」
「そう。僕達竜の宮の巫女の、長姫。黄色の勾玉を持っていた、竜王の宮の巫女だよ。勾玉はそれぞれわずかに色合いが違うんだ。君の持っていたのは青玉、僕のは赤玉、他に白、黒、黄があるんだ。それぞれを五人の巫女が持って祀っていたんだよ。当時のままの場所にあったのはどうやら僕の所だけみたいなんだ。当たり前だよね、2300年も経っているんだから」

 うん。オレが手に入れたのは長野の山奥だ。ここも本来は巫女のいた宮じゃないんだと。

「さっきも言ったけど、葵んち、火事で何もかもなくなってるんだから、もしかしたら無駄足かもしれないけど」

 オレの忠告に、杉浦は笑って答えた。

「無駄足は今まで何百回も踏んでいるよ」

 そうでした。一年半も旅して来たんだもんな。今更のことだよな。

「さて、もう寝ようか。明日は岡山だから」

 そう言って杉浦はとっとと布団に入ってしまった。


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