第4章
巫女−壱−
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「勾玉ってね、普通の人間にとってはただの石ころなんだよ。普通の人間には反応しない筈なんだ」
「それって、オレがお前の仲間ってことか?」
「…」
杉浦はそれ以上は言わなかった。
黙ってうつむいてしまった杉浦に、オレはポンと勾玉を放ってやった。
「えっ?」
驚きの表情を向ける杉浦。
「いるんだろ? やるよ」
「いいの?」
渡せと言ったのは自分のくせして、この期に及んで意外そうな顔をする。よく分からないヤツだ。
「少なくともさっきの化け物に渡すよりは安全だろ? 何に役立つのかは知らないけど、せいぜい活用してくれよ」
破顔する杉浦。取り澄ました顔をしていると差ほど思わなかったけど、笑うと中学生かと思えるくらい幼く見える。
こういうヤツを見るとついつい保護欲にかられてしまうのがオレの悪い癖。
要らないことを言ってしまったと、後から後悔することになる。
「今晩、泊まる所はあるのか?」
ほっとけばいいものを、人が良いよな、オレって。
* * *
日中はまだ暑い日もあるが、朝夕はめっきり冷えるようになった。
布団に毛布まで貸してやると、杉浦は嬉しそうに笑った。
オレの言葉にすっかり気を許してしまったのか、初めのような高慢な態度はなくなり、代わりによく笑う人懐こい目を見せるようになった。
ちょっとクラッときたけど、こいつ、笑うとすごく可愛いんだけど?
その晩、杉浦はオレに語った。
こいつはもう一年半以上も旅を続けているのだって。はるか二千年以上も昔の勾玉を探して、これからも日本中を探して歩くと言う。
手掛かりはあるのかと聞くと、簡単に、「ない」と答えてくれた。
夢物語か、空想としか思えないことだと人は言うけど、危険はすぐ側まで迫ってきているのだとつけ加える。
そのあまりにも真剣な顔に、オレは黙って聞いてやった。半分、信じながら。
「ね、清水くん、九頭竜川をずっとさかのぼった山の奥の洞窟に変な壁画があるのを知ってる?」
ふと、杉浦は話題を変えた。
この町を流れる河川を九頭竜川と言う。逆上って行くとダムがあるのは知っている。小学校の遠足で行ったことがあるのだと答えると、杉浦はまた笑った。
「壁画に文字が書かれててね、“竜神目覚めるとき人の世は終わる”って。誰が書いたものかは分からないけど、この地はもともと竜神とつながりがあったんじゃないのかな」
あれ? 誰かがそんな事を言っていたような気がする。誰だったか。
「そう言えば洞窟の近くに古い家が建っていたんだけど、人が住んでなかったみたいだね」
「ああ、あれは葵んちのだよ」
昼間思い出したように聞かされた名前を口にした。そうだ、あいつの所のじいさんに小さい頃に聞かされたんだ。小学校時代だよ、すごい昔。
「そう言えばあいつの家ってなーんか古めかしい物が多かったよな。巻物だとか銅の鏡だとか、勾玉なんかもあったかなぁ」
杉浦の顔が光って見えた。分かりやす。