第4章
巫女−壱−
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「竜伝説に興味があるのかい?」
歩きながら本を読んでいると、また声をかけられた。今度は学じゃないだろうと思って、本を閉じて見遣ると、オレと同じくらいの男が立っていた。
涼しそうな笑顔だけど、こいつ、目ではオレのこと訝しがるように見てる。
どう返したものかと考える間もなく、そいつは近づいて来て無遠慮にオレの手から本を取り上げた。
「竜は神なんかじゃないよ。神と称されたのはむしろ…」
言いかけて、そいつは辺りに目をやる。用心深く何かの気配を探るような、そんなふうに見えた。
何だかわからないけど、オレはその隙にそいつの手から本を取り戻す。そしてくるりと背を向けた。
途端、背後から追ってくる声。
「まだ話は終わってないんだよ」
相手にしないでオレは行こうとした。
その時、黒い影が目の前をかすめた。
疾風が巻き起こり手にしていた本が吹き飛ばされる。
あんな分厚くて重い本、簡単に飛ぶか?
「うわっ、何だ?」
追いかけようとしたが、それを制止する手に阻まれる。
「危ない、逃げるよ」
さっきのヤツだった。
オレは何が起こったのかも分からずに、引きずられるようにしてそいつと一緒に駆け出すことになった。
また、要らないことに巻き込まれたような気がした。
* * *
「いいかげんに放せよ」
どれだけ走り回らされたのだろうか、さすがのオレもバテバテになった頃、ようやくそいつは立ち止まった。
体力には結構自信があったつもりだけど、そのオレがへろへろになっているっていうのに、そいつってば全然平気そうな顔をしていた。
多少息を切らせている程度にしか見えなかった。背だってオレより小さいし、ひょろっこいし、女の子みたいな顔してるくせに。
そんなヤツに多少ムッとしながら、オレはそいつの手を振り払う。
「一体何だって言うんだ。あんた、誰だよ」
学校からの帰り道だったんだけど、学校まで逆戻りしてしまったじゃないかと付け加える。
するとそいつはまるで悪びれたふうも見せず答えた。
「危ないところだったね。もう少しで殺されるところだったよ」
どこがーっ?
思わずそいつの襟首をつかんでいた。
「何だ、君は綺羅(きら)の巫女じゃないんだ」
呆れたとでも付け加えるのかと思うくらい、拍子抜けした表情で言ってくれた。
それからオレの手を振りほどくと、背負っていたリュックの中から何やら布袋を取り出した。
その袋の中から取り出されたものに、オレは一瞬目を見張った。
それは古い時代に作られたと思える勾玉に間違いなかった。あの水無瀬村でオレが手に入れた竜の勾玉と同じものだった。
そして驚いたことにそれはそいつの手の中でわずかに明滅していた。