第3章
古寺への招待
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「人間の分際でわしに刃向かえると思うてか」
蛇はそう言って笑う。ぬめぬめしてぞっとするくらい冷たくて、気持ち悪いだけの爬虫類の化け物が何を言うかっ! 私はそう怒鳴りながら、げんこつで蛇の尾を殴りつける。だけどびくともしない。
もうっ!
「お兄ちゃん、助けてっ」
叫んだ瞬間、目の前が昼間のように明るくなった。眩しくて目を閉じた。
閉じたまぶたの隙間からこぼれ入る光は柔らかなブルーだった。
その、次の瞬間頭上で何かの砕け散る音がした。と、私の体に巻き付いていた大蛇の尾がするすると離れていく。何事が起きたのかと、眩しさをてのひらで避けながら目を開けてみると。
屋根がなかった。
「何、あれっ」
大蛇っていうのも信じられないけれど、それ以上に私は自分の目を疑った。 天井を抜けて見える深い蒼の夜空に、ぼんやりとその身を青い色に光る鱗で包んだ巨大な竜――よね? あれって――が舞っていたのだった。
「ああ…、そうか…」
何だろう、なぜだろう、私の中で納得する心。安心する気持ち。その竜を見つめていると沸き起こる。
思いっきりの非現実。ありったけの非常識。だけど私には解ってしまうんだ。
あの竜は、あの青い光を放って空を飛ぶのは――。
ふんっ。格好いいじゃないの。私はちょっと悔しかったけど。
そしてその姿と比べるとこの蛇の何と陳腐なことか。天を仰ぎ見、脅えるみたいに小さくなっている。ううん、本当に恐れているんだ。私は今度こそ逃れるチャンスを得て、駆け出した。
* * *
僧堂まで来て、そこに由加とさつきの姿を認めると、急いで駆け寄った。
「美奈〜。無事だったのね」
その場所から仏堂の有り様がよく見える。屋根は吹っ飛び、壁はぼろぼろ、竜巻でも襲ったのかと思わんばかりの惨状だった。そしてそれに加えて巨大な化け物までいるのだから心配しない方がおかしい。
「大きな音がして目が覚めたら、美奈がいないんだもの。外へ出てみるとあれでしょ? びっくりして」
「美奈のお兄さんもいないのよ。どうしたのかしら」
心配する二人に私は合わせる。
「ホントに。どこまでトレジャーハントに行ったのかしら」
本人が聞いたらさぞ怒るでしょうに。
私はもう一度天を仰いだ。そこにある青い竜。
竜は私達の見ている前、大きく体をうねらせると、そのまま地上に急降下していった。そして地面に激突する直前に光度を増したかと思うと、そのまま沈むかのように消えていった。
「……………あれ、何……?」
由加があきれたように、ポツリと言った。
* * *