第3章
古寺への招待
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「どうじゃ。わしの妻にならんか? 永遠の命を授けるぞ」
……何じゃってー? こんのくそじじい、どの面下げてよーんなぁ。よー考えてみー。自分の年、なんぼじゃ思おとんなら。ちばけなっ!――思わず方言が出てしまうほど私は頭に来た。
だけどやっぱ対抗できる力はないわけで、逃げ出す道も見つからない。やだよー、こんな化け物! 私は美形好きなんだからっ!
巨大蛇は、釜首を私の頭上に持ってくる。
「やだってばーっ」
叫んで、その弾みに涙が出てきた。だってやっぱり怖いし、気持ち悪いし、逃げられそうもなくて悔しかったから。
チョロチョロと動く舌が、もう少しで私に触れるという時――。
「美奈っ!」
ったく、助けに来るならもうすこし早く来てよね。お兄ちゃんのばかっ。
大蛇はゆっくりと声のした方に振り返る。そこに、お兄ちゃんが立っていた。
「人間が…っ」
あからさまに侮蔑を含んだ口調。それはお兄ちゃんに向けられていた。
「美奈、平気か?」
「遅いわよ。もっと早くに出て来るものよ。正義の味方じゃあるまいし、焦らしゃ、いいってもんじゃないわよっ」
「お前な〜ぁ」
だって本気、怖かったんだもん。お兄ちゃんのばか。
「人間が、このわしに適うとでも思うておるのか」
「勾玉の力借りねば力持てぬ小蛇が、何を言うか」
喋り方が、いつものお兄ちゃんじゃなくなる。
「何じゃと?」
大蛇はその大きな口を開け、牙を光らせて見せる。
正面から見たらやっぱお兄ちゃんでも怖がるだろうね。だのに意外。お兄ちゃんは一向に動じた気配なんて見せない。それどころか少し余裕の笑みをこぼしているみたい。
「我が名を忘れるとはもうろくしたな、守螺よ」
錯覚かしら、ぼんやりとお兄ちゃんの身体の周りが青白く光って見え始めた。
まさか、お兄ちゃんってば生霊でも飛ばしてんじゃないでしょうね。うーん、昔から怪奇現象とかUFOとか好きだったし、高校の時には超能力にも凝ってたことあったわよね。もしかしてそんな特技、身につけていたりして。
なんてあるわけないわよね。ばかばかしい。
それよりもここから抜け出さなくっちゃ。大蛇がお兄ちゃんの方に注意を払っているうちに私は後方から退出しまーす。
心の中で呟いて、私は後ずさる。
うまくいくと思ったんだけど、目の前の巨大な蛇の尾っぽが邪魔をしてくれた。こいつってば頭の後ろにも目がついているんじゃないの。逃げ出そうとする私の行く手を塞いだかと思ったらあっと言う間に私の身体に巻き付いて来た。
「何すんのよ、このエロじじいっ。放しなさいよ!」
お兄ちゃんもお兄ちゃんよ。そんな所にボサッと突っ立ってないで早く助けなさいよ。