第3章
古寺への招待
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「じゃあどうして和尚さんはここへ逃げ込んだの?」
「その和尚は俗物じゃて。金に目が眩んだのじゃ。そんなヤツでも仏の力を借りると助かるとでも思うたのじゃろう。逃げられもせぬのに」

 と言うことはこの勾玉ってもしかしてすっごく高く売れるの? いくらくらいになるのかしら。でもお兄ちゃんはポイと投げてよこしたわね。何で?

 ちょっと待って。分かんないことが多すぎるわ。

 この勾玉はこの大蛇の宝よね。で、和尚さんに取られた大蛇はこの寺に住み着いてこの勾玉を取り返そうとした。和尚さんはのたれ死んで、ここにあったのをお兄ちゃんが見付けてきて、勾玉はいま私の手の中。大蛇はこれを手に入れれば満足。

 でも何で大蛇が“古寺への招待”なんてちらしをばらまいたの? 保護者同伴などともっともらしいこと書いて人を集めて…ってことはやっぱ、人を食べるんじゃない。そのためだったとしか考えられないわ! だからやっぱり和尚さんはここに逃げ込んだのよ。

 とするとこの勾玉は手放しちゃいけないわ。ここなら大蛇も襲って来ないだろうし。

 でも、何でここなら襲って来ないの? 仏壇の後ろだから? だってここの仏様ってちんけな木像よ。あまり御利益なさそうなのに。

「さあお嬢ちゃん、早くそれを返してくれんかね」
「ばか言わないで。こんな化け物寺へなんかへ呼んでおいて…。往復の運賃・特急料金だけでもどれだけしたと思っているのよっ。それ全部返してくれたら考えてあげるわ」

 これは大嘘。特急料金なんて払ってないけどね。だって18キップだもん。

「…仕方なかろう、勾玉を返してくれるなら…」

 あら、意外とだまされやすいのね。ならグリーン券分もふっかけた方がよかったかしら。

「この勾玉ってそんなに大切なものなの? 何の霊力があるの?」
「何もありはせん。わしの長生きの種じゃ。それしか役目はない」
「ふーん、そうなの」

 本当かどうか疑わしい。だけどこの勾玉がこの蛇さんのものだって言うんだから、いいかげんに返してあげなきゃね。私ってやっぱり常識人だから。

 私はその勾玉をポーンと放り投げた。

 もう少し疑ってみるべきだったのかもしれない。A型の私としたことが、失敗だったわ。

 青大将は私の放り投げた勾玉をその口にくわえると、にんまりと笑った。途端その体は今以上にふくれあがっっていった。

 天井まで届くかという大きさにまでなると、尾を一振りしてこの仏殿の壁をぶちぬいた。

 無益な殺生はしないと言ったはずなのにぃ。嘘つきっ。

「お嬢ちゃんなはお礼をしないとな」

 巨大蛇は大きくなるところまで大きくなったのだろう、思い出したように私の方を振り返って声をかけて来た。

 お礼なんていらないから、とっとと山へ帰ってよ〜。 だけど蛇は段々に近づいて来る。もうこの場所も平気みたい。

「何にしても命の恩人だからの」
「だったら近づかないでよっ!」

 また、あのにんまり笑い。


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