第3章
古寺への招待
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 人里離れた古びた寺。ひんやりとした空気が夜具を通して伝わって来る。どこからともなく聞こえてくる虫の声。

 そんな中で、私はやっぱり気になって眠れなかった。

 いくら檀家がもういないからって、和尚さんのいない留守に泥棒したんじゃ、あんまりにもあんまりよね。これって犯罪よ。

 一般常識人の私には、これを持って帰ることなど許されなかった。返して来なければ。

 私は勾玉を握り締めて、布団の中からはいずり出た。由加とさつきの二人が寝入っているのを確かめると、そっと部屋から抜け出した。

 歩くたびにわずかに軋む床。しんと静まり返った廊下。少し肌寒さを感じた。

 長く感じる廊下を抜け、上がり間まで来た時、ふと気になって振り返ってみた。

 誰もいる筈がない。そうよね。みんな寝ていたものね。

 そして私は靴を履き、外へ出た。

 外は満天の星空だった。こんな夜空、めったに見たことない。目眩がするほどの星の数。今日は新月なのかな。月が出ていない分、星の明かりが増して見える。

 田舎っていいな。すぐ下の川には蛍も舞うのかしら。

 うちの近所も、私がまだ小さかった頃には蛍の飛び交う川が流れていたっけ。いつの頃からか住宅化が進み、下水の整備がされていない地域なので、今じゃすっかりドブ川になってしまった。ここは人が住んでいない分、きれいなままでいられるのかな、きっと。

 そんなことを考えながら、私は仏殿へと向かった。昼間入ろうとして、表の入り口に鍵のかかっているのを確かめていたけれど、一応扉を引っ張ってみる。だけど開かなかった。

 案外、押したら開いたりして。というのは安易な考えよね。かんぬきが中からかかっているもの。

 仕方がない。どこか他に入り口はないかしら。

 お兄ちゃんはここから持ち出したに違いないから――本人がそう言ってたものね――どこかに別の入り口があるはずよ。

 私はぐるりと仏殿の周りを回ることにした。まさか床の下から入るのかしら。でも蜘蛛の巣がいっぱいだし…。

 ふと、私は一つだけ扉を見付けた。

 よく見ないことにはつい見逃してしまうけれど、壁と同じ素材の、古びた木の扉で、鍵も掛かっていないようだった。

 ゆっくりとその引き戸を引いてみる。意外にも戸はすっと開いた。古いので木を擦るハデな音がするのかと内心びくびくしていたのだけれど、しなくて良かったわ。きっと毎日掃除をするために開け閉めしているのね。

 格子の隙間から漏れる星明かりに、足元はあまり不自由しないようだった。

 靴で入っちゃいけないわよね、と思ったけれど、面倒なのでそのまま上がった。


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