第3章
古寺への招待
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二人は半分べそをかきながら訴えた。
そういうの、どこかで聞いたことがある。日本昔話でやまんばだか何だかにとっ捕まった小僧さんが、お札を使ってその魔の手から逃れる話。思うにこの二人はお兄ちゃんにとってやまんばかしら。などと悠長に考えていると由加の怖い視線が飛んで来た。
「解った解った。きっとシャイなお兄ちゃんは二人が入って来るのを察知して天井にでもへばり付いたのよ」
そんな珍芸がお兄ちゃんにできたかどうかは知らないけれど。そう言うと二人はまたばかにしているとにらんでくる。じゃあどうしろって言うの。まあ怖い、恐ろしい、お兄ちゃんってば湯に溶けてしまったのね、まるでバスクリン…あっ、だめだわ、また自分でオチをつけてしまう。
「仕方がない」
私はつぶやいて立ち上がった。
「ど…どうするの?」
二人の不安そうな顔。
「決まっているでしょ、現場を見に行くのよ。立ち会ってくれるでしょ?」
ぶるぶると二人は頭を左右に振る。何びびってんのよ、相手はたかだかお兄ちゃんよ。
「解ったわ。あたし一人で見に行くわ」
「へー、何かおもしろいものでもあるのか?」
グッド・タイミングゥゥ。
お兄ちゃんがひょっこり顔を出して来た。一体どこから沸いて出るものか。
私はのんきな顔をしたお兄ちゃんを見上げて、はーっとため息をつく。
「お兄ちゃん、お風呂はいるゆうときながら、どこ行っとったん?」
お兄ちゃん相手だと遠慮なく方言が出る。
「えーっ? 風呂入っとったぞ」
「この二人が覗きに行ったけど、おらんかったよおるで」
「げっ、覗きに来たぁ?」
「ちょっと美奈〜」
「ごめんなさーい」
由加とさつきとお兄ちゃんが赤面した。
* * *
「ま、それはともかくとして、お兄ちゃん一体どこ行ってたの?」
どうも湯上がりには見えない様子のお兄ちゃんに、私は詰め寄る。まさかとは思うけど、その辺りを珍しい物でもないか物色していたりして。
「ああ、こんなもの見付けたんだ」
言って私達の目の前に差し出して見せたのは、古代の絵画などで見たことのある首飾りのようなものだった。幾つもの珠をつなぎ合わせ、真ん中には大きな曲がった珠――勾玉と言うのだろうか――があった。
「おまえにやるよ」
そう言ってお兄ちゃんは、惜しげもなく私に放ってよこした。
嘘でしょ。お兄ちゃんはこんないわくありそうな物には目がないはずなのに。ってことはイミテーションなのかな。いや、でもこの重さは――ずっしりとくる手応え、なんとなく感じる荘厳さは…。
「この寺の護りだ。仏殿で見付けた」
「そーんな物持ってきて、怒られるわよ」
「大丈夫だ、この寺に壇家なんてもういないし、和尚ももう…」
言いかけて口ごもる。お兄ちゃんらしくないわね。
「とにかく、俺もう寝るから、お前らもさっさと寝ろよ、ウォークマンなんて聴いてないで。夜更かしはおハダに良くないぞ」
余計なお世話よ。それに、ウォークマンって…。
言うことを言って出て行くお兄ちゃんの後ろ姿に私はアカンベーを送った。