第3章
古寺への招待
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 夕飯なんて期待していなかったので、私は何もがっかりすることはなかった。けど、由加とさつきの二人は山の幸を思いっきり期待していたらしく、出された山菜おこわに川魚と澄まし汁だけというお膳にぶつぶつと悪たれていた。この建物を見れば解るでしょうに。大体こんな所で何が食べられると言うの。山奥深くに分け行って本当に山の幸にありつけるものかってね。ドングリとイワナの生活に決まっているじゃない。

 だけど二人はくじけずに、日が沈んだ後、夏の残り物の花火をし、それが終われば次の楽しみを求めてこっそり部屋を抜け出して行った。よくやるわ。

 私はといえば、電灯もない部屋、ロウソクの明かりだけじゃ本も読めるじゃなく、テレビもラジオもない以上、iPod聞いているしかないじゃない。

 ちゃんちゃかちゃんちゃん、しゃかしゃかしゃ。

 聞き慣れた曲に軽くリズムを取っていた。

 と、そこへけたたましい悲鳴と足音、そして地鳴りを響かせて、由加とさつきの二人が、文字通り転げ込んできた。

 私達が別名三丁目のかしまし娘って呼ばれるの、私のせいじゃないからねっ!

「美奈〜っ、大変よーっ」

 はいはいはい。私はiPoを止めてイヤホンを外した。

 息を切らせた二人は部屋に入って来ると途端に床にへたばった。

「何よ、お兄ちゃんの入浴シーンを覗きに行ったんじゃなかったの?」
「そっ、そんな露骨な…」

 事実でしょうが。あんなのの、どこがいいんだか。

「で、湯に浸かっていたのは実は古狸だったとか?」

 言って私はけらけら笑った。と、怒ると思いきや、二人は顔を見合わせてから青い顔をこちらに向けた。ロウソクの光の加減かな。

「実体があるくらいならあたしだって驚かないわ。タヌキならタヌキ汁にしてやるところよ」

 とは由加。よかったね、お兄ちゃん、タヌキじゃなくて、と私は口に出さずに呟いた。

「そんな冗談言ってないで…とにかく美奈、出たのよ」

 今実体がないって言わなかったっけ? この子達は一体何が言いたいのか。

「いや、誰もいなかったのよ、お風呂の中には」
「じゃあ次、入れば?」
「違うんだってばっ」

 だから解るように話してよ。私は由加から目を外し、さつきの方へ向かった。

「あたし達ね、お風呂の中で物音…水音が確かにしているのを聞いたのよ。美奈はここにいるでしょ。お爺さんは奥に引っ込んでしまったままでしょ。だったらお風呂に入っているのはお兄さんしかいないじゃない。そう思って」
「覗いて見たわけだ」
「美奈ったらそんなはずかしいぃ」

 違わないでしょうがっ!

「それで、それで、中見たら、誰もいなかったの」
「…はぁ?」
「水の音はしてたの。それなのに誰もいなかったのよ」


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