第3章
古寺への招待
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「ひえーっ、ボロい寺」
山門をくぐると、そこは苔むした古寺だった。
「看板に偽りなし…か」
溜め息とともに口をついて出る言葉。期待を遥かに超えると人間イヤになるものである。なぁんて解説しても始まらない。ここより他に建物がない以上、暮れかかったお日様の下では、妥協するしかないでしょう。
「こんにちはーっ」
声のよく通る由加が、まず第一声を上げる。だけど寺の中はしんと静まり返ったままだった。
「誰も…いないのかな…」
途端に不安な表情を見せたのは由加。この子はころころとよく表情が変わる子だわ。それだものだからついからかってみたくなる。
「ムジナぐらいいるかもよ」
これは冗談。…のつもりだったのだけど、いきなり背後に人の気配を感じて、私は思わず悲鳴を上げるところだった。
「岡山の静川さんの一行かね」
振り返ったそこに立っていたのは、古い衣を身につけた、随分と年のいったお爺さんだった。
頭に毛のないところから判断するなんて小学生みたいな思考だけど、見たところここの寺守りらしかった。うーん、和尚さんと言うには何か違うのよね、雰囲気が。ま、これは私の偏見だけど。
「遠い所をよくきなさったな。今お茶でもいれるで、上がってくだされ」
そう言うとそのお爺さんは先に立って寺の中へと入って行った。
私達はそれを見送って顔を見合わせた。
* * *
寺の中は暗かった。寺と言ってもここは僧堂で、畳も古いけどきちんと敷いてあったし、座布団も出してくれた。お兄ちゃんの談によるとこういう所には畳など敷いてないんだって。
「まあ、大変じゃったじゃろうて。ここまでは汽車で来たのかね」
不器用な手つきでお茶をいれてくれながら、お爺さんは聞いてきた。その顔に慣れない笑みを浮かべている所を見ると、ここの寺の宿泊もつい最近始めたものなのかも。
「直に夕餉(ゆうげ)の支度もできるんで、ゆっくりしてくだされ」
「お世話になります」
お兄ちゃんが代表して答える。それくらい言ってもらわないとね、ハタチなんだし。
「ところで、えーっと、…和尚さん…?」
「いやいや、わしは単なる寺守りじゃて。和尚は半年前から修行に出ておられて、当分戻らんのじゃ」
ふーんと私は鼻を鳴らす。なるほどね、和尚のいない留守に寺守りが小遣い稼ぎの為に営業をしているって訳か。それにしても修行とはまあ、熱心な仏教徒だこと。