第3章
古寺への招待
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「さすがにここまで来ると、ひんやりするね」
11月に入ってすぐの連休を利用して、私達は名もない山村へやって来た。静かな小鳥のさえずりが混じった風は、都会の匂いを洗い流してくれるようだった。はるかに連なる山々の紅葉の、なんと綺麗なこと。
「さーて、取り敢えず宿に向かおうか」
一両編成の汽車から降りて、私は地図を取り出した。
予約を取った後、地元の地図を送ってもらったんだけど、これがまぁ随分と古いものらしく、端の方が破れかかっていたりする。所処黄ばんで染みになっているし、これを見た時、私、この旅行やめようかと思ったんだけど、逆にお兄ちゃんの方がすっかり乗り気になっちゃって、そうなると由加なんて絶対付いて行くだろうし、私が取りやめるわけいかないじゃない。
ああもう、変な兄貴と友人を持つ私って苦労人かも。
「ここが駅でしょ? とすると太陽は今、西にあるから…」
なんて原始的。でも無人駅のここでは誰も他に尋ねる人はなく、磁石を持たない私達にはこの方法しかなかった。幸いにも道は一本なので迷うことはなさそうだった。
「夕暮れ時までには着けるかしら」
「今は日が落ちるのも早いから」
「いざとなれば野宿すればいいって。真冬じゃないし、凍え死ぬこともないだろう」
そう言った馬鹿は、勿論お兄ちゃんだった。まーったく、外見に似ずデリカシーのかけらもないんだから。足を踏ん付けてやろうかと思っていると隣でボソリとつぶやく声。
「野性的でステキ」
由加とさつきの二人が異口同音。
勝手にしてよ、もう。私は地図をしまうとリュックを背負い直し、すたすたと歩き始めた。慌てた三人がその後を付いて来た。
* * *