第3章
古寺への招待
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 盛り上がる私達に一人取り残されて、訳分からないと言った顔をしたお兄ちゃんがドアの前に立ったままだった。

「お兄ちゃん、ハタチよね」

 世間には内緒にしているらしいけど、この人、1年浪人してるんだ。ま、みんな知ってるんだけどね。

「…は?」
「キュートなギャル三人に囲まれた、ステキな夜を体験してみない? もうお兄ちゃんだってオトナなんだし、いいわよね?」
「おまえなぁ…」

 言葉は色っぽく言ったつもりだったけど、後からのお兄ちゃんの談によると、絶対に捕まえた獲物は逃すまいという表情がはっきりと浮かんでいたらしい。あっさりと見抜かれてしまった。

「今度は何のお願いだ? 言っておくけど俺は今金なんて持ってないぞ」
「大丈夫。青春18キップを使って、宿代も一泊3500円! 秘境探検付きよ」

 この言葉にお兄ちゃんってば弱いのよね。思った通りお兄ちゃんの目はらんらんと輝きをまして来た。ふっふっふっ、だてに16年間も静川聖輝クンの妹やってるわけじゃないわ。

 そして私はそれとなく、さっき持って来たチラシを隠す。一人一泊2000円なんて知られちゃ困るし。お兄ちゃんは大人料金で、私達は500円引きにしゃおうと、とっさに名案が浮かんだ私。

 お兄ちゃんはふと真顔に戻る。

「でもなぁ、この間、福井の山奥に行ったばかりだしなぁ」
「一人旅でハタチの青春を終わらせていいの? 可愛いギャル三人と…」
「ギャグの間違いじゃねぇか?」

 ボソリとつぶやく声を、私は聞き逃さない。

「何か言った?」

 お兄ちゃんは慌てて話題を戻す。

「そうだなぁ、行き帰りはともかく、現地では別行動というのなら、乗ってやらないこともないが」
「そうこなくっちゃ」

 これで保護者は確保できたわ。ふっ、お兄ちゃんを乗せるなんてチョロイもんよ。

「えーっ、別行動ですかー?」

 そう言って渋る由加をなだめて私は、時刻表をお兄ちゃんに要求する。お兄ちゃんの部屋には昔ながらの時刻表があること知ってるんだ。今の時代にね。

「いいけど…お前本当に自分で計画立てられるのか?」
「お兄ちゃんにしてもらうとピンはねされそうだからあたしがするわ」
「どっちがだよ」

 ぶつぶつ言いながらお兄ちゃんは自分の部屋へ時刻表を取りに行った。出て行ったのを確認してからこっそりチラシを取り出す。

「これであたし達は一泊1500円で済むわ」
「せこいわねー」
「ありがとう」

 呆れるさつきに軽く返して、私達の古寺ツアーが決定した。





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