第2章
かわいた雨
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一瞬の間、ほんの僅かの間、稲妻の光る中、オレは天を舞う竜の姿を見たんだ。
ほのかに青い光を放ちながら、天を覆い尽くすかのように舞う巨大な竜だった。
「竜神が戻られた」
村人の間で次々に挙がる声。爬虫類の顔に似た村人達は天へ向かって両の手を広げる。
雨は次第に激しくなる。もう既に立っていられないほどに。
オレはすっかり気のそれてしまった夏菜から逃がれ、走った。
足元はくるぶしまでつかるほどの水が流れていた。これほどの大雨、夕立にしてもめったにあるものじゃないけど、そんなことじっくり考えている暇はなかった。再び追って来ないとも知れない夏菜達のことを思うと、自然足も速くなった。
と、いきなり遠くの方から低い地鳴りの音が聞こえて来た。
何事かと思って振り返ったオレの目に映ったものは、怒涛のように押し寄せて来る津波――もとい、濁流だった。そんな馬鹿なと、オレは辺りの木にしがみつく。
一難去ってまた一難。などと悠長に言っている場合ではなかった。轟音とともに水の一団はオレめがけて流れて来る。
今度こそおしまいかもしれない。
水はオレをその木もろとも押し流した。
そして世の中が沈黙した。オレの耳には、水の音も何も聞こえなくなった。
水の流れはあれほどの勢いからは考えられないほど緩やかに思えた。オレを飲み込んだ水はまるでゆりかごのように、なだらかにオレを包んで揺れていた。
オレはその中で気が遠くなっていく。大蛇に食われて死ぬのも厭だけど、こういうのもあまり歓迎したくはなかったんだけど。
薄れゆく意識の中、オレは静川さんのことを思った。青い光を放つオーラを持ったあの人は一体どうなったんだろう。広場にはいなかったけど、まだこの村にいたのだとすれば、この水に流されはしなかっただろうか。
意識のなくなる寸前、オレは青い光を見たような気がした。