第2章
かわいた雨
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オレはそれを取り出す。
「碧海、それは…」
夏菜は怯みながらも眩しそうにしている。
「そうか。これはやっぱり」
伝説とか神話とか言い伝えとか、そんなものオレは信じないけどね。自分に都合のいいことだけは信じてしまうんだ。きっとこれは魔よけなんだと。
「怯むに及ばないわ。そのような単なる装飾品、力など持ちはしない」
夏菜がそう叫んで壇上から飛び降りる。そしてその爬虫類の口を耳まで裂けんばかりに広げる。
その時だった。
稲光が走った。
はっとして天をふり仰いだ顔に、大粒の水が落ちて来た。
「雨…?」
村人は狂喜する。
「そんな馬鹿な、まだ生け贄祭は終わっていないのに」
夏菜は信じられないと言った表情で天を見上げる。その横顔に、バケツの水をひっくりかえしたような大雨が降り注ぐ。
オレは夏菜の気がそがれているうちに逃げ出そうとした。が、それは適わなかった。夏菜の細い腕がすっと伸びて、オレの腕を捕まえる。
「逃がさなくてよ、碧海」
オレは夏菜を見る。彼女はもうオレの知っている夏菜じゃなかった。
もともと夏菜がこの蛇だったのか、それとも乗り移られでもしたのか分からなかったが、それはもう夏菜ではないのだ。
オレは思いっきり彼女の手を振り払おうとした。が、意外にも彼女の力は強かった。どんなに力を込めようと、オレの腕から剥がれることはなかった。
赤い目が光り、耳まで裂けた口から細い赤いものがチョロチョロと覗き、口の周りをなめていた。
夏菜の口が大きく広かれる。
オレはその時手に触れたものを、思いっきり彼女に投げ付けた。
それは、勾玉。
彼女の悲鳴と共に再び雷鳴が轟く。
その光の中、オレは信じられないものを見た――ような気がした。