第2章
かわいた雨
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後ずさりをしようとするオレの背を夏菜はぽんと叩く。その弾みで、オレは壇上から大蛇の目の前に転がり落ちた。
大蛇の赤い目がオレを見付け、迫って来た。
「うわ、うわーっ」
みっともないと思う。思うけど、思うけど怖かった。
巨大な蛇がオレに向かって大きな口を開けた。
オレは這うようにして逃げる。
祭壇の上から夏菜の笑い声が聞こえるが、そんなもの気にしている暇なんかなかった。自分の命のことで手一杯だった。体裁も何も構ってられない。
だけど、逃げ切れるものじゃなかった。
巨大蛇はあっと言う間にオレに追い付き、オレの周りにとぐろを巻いてくれた。体を縛られるような格好になり、オレは身動きが取れなくなった。
夏菜の甲高い笑い声が、オレの恐怖を一層煽りたてる。
大きな口が目の前一杯に広がった。
今度こそもうだめかと思った。オレは目をつむる。
たった16年間だった。人生の五分の一しか経験せずに死ななければならないのだろうか。家には父さんも母さんもいる。両親の老後は一体誰が見るというのだろうか。
今こんなこと考えている自分って…。
その時だった。
いきなり体の自由が戻る。スーッと身を引く大蛇。
オレは目を開けて辺りを見る。
月が陰っていた。その代わり蛍よろしく、オレのお尻で例のペンダントが光っていた。