第2章
かわいた雨
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オレはそう言った夏菜の顔を見る。
先程の大蛇はあたかも夢であったかのように、そこにはいつもの彼女の顔があった。
「それ、どういう…」
夏菜の合図で、オレの手をつかんでいた男はオレを解放した。
「言ったでしょ、この村には竜神が住んでいたって。その竜神に捧げられるのよ」
夏菜はすっと手を伸ばし、オレの手を取った。それは冷たいぬるぬるしたものであったが、オレはその手を握り締めた。夏菜の見せる表情があまりにも儚げだったから。
「昼間見て気付かなかったかしら。この村の畑も田んぼもみんな干上がっていたでしょう」
そう言えばと思う。普段見ないものだからまるで気付かずに、ただ山村にしては暑い所だと思っただけだった。
「村は何十年かぶりの干ばつに喘いでいるの。だから生け贄を捧げるのよ。水神さまに」
「それで夏菜が?」
「生け贄はあなたよ、碧海」
夏菜の顔が変わる。さっき見た大蛇のものに。
オレは動けなかった。
夏菜に手を引かれるまま祭壇の上へ登る。登って初めて、その向こうの暗い影になった所にいた大蛇に気付いた。
「さあ碧海、怖がることはないわ。あれが竜神さまに最も近いもの、私達の神」
冗談ではない。さっき見た大蛇なんかとは比べものにならない位の大きさだった。
体長は裕に20メートルはありそうだ。胴回りも肉付きよく、大の大人でも一口か二口でぺろりと平らげてしまいそうなくらい大きな口をしてるじゃないか。
細く赤い舌がチョロチョロと見え隠れして、赤い目は不気味に輝いている。これのどこが竜神だって言うんだ。