第2章
かわいた雨
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「我が一族は大蛇などではない。竜神の子孫だ」
「成程ね。竜になり損ねた蛇ってことか」
静川さんのこの言葉に、彼女の怒りは頂点に達したらしかった。
見る間にあの可愛い夏菜の顔は潰れて、その下から深緑ともこげ茶色とも区別のつかない鱗を鈍く光らせたモノが姿を現した。それは半分人の顔をしてはいたが、見るからに爬虫類だった。
「清水、お前はあの御堂の中に入っていろ」
「えっ?」
「中に入って勾玉を探せ。あるはずだ」
「まがたま……?」
オレはどこかで聞いたことのあるようなその言葉を繰り返した。
「お守りみたいなものだ。邪を帯びたモノは近づくことができない。お前を守ってくれる」
こういう台詞は多分静川さんが民族学だか民話だかに興味があるから言えるんだろうなと思いはしたが、こう目の前で信じ難い光景を見せつけられちゃあ、そういう類いのモノもあるんじゃないかと期待してみたくもなるじゃないか。
「だけど静川さんは……」
と聞きかけてオレはやめた。
青いオーラの輝く静川さんも、オレには人ならぬモノに見えてき始めていた。
オレは静川さんと睨み合うかつて夏菜の姿をしていた大蛇の横を擦り抜け、御堂の中に入った。
中は暗かった。じめじめと湿っぽい匂いがする。そりゃあそうだろうな。蛇の祀っている御堂なのだから。
と、オレはこの時はたと気がついた。
大蛇達の祀っていた御堂だ。大蛇の近づき難い物が置いてあるのだろうか。それよりも大蛇の大将でも出て来たらどうしてくれるっていうんだよ。
オレはさーっと血の気の引いて行くのを感じた。