第2章
かわいた雨
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オレ達は家の人達に気付かれないように、こっそりと抜け出した。
村はしんとして、不気味なほど静かだった。夜中の十二時も過ぎているのだから当然と言えば当然だけど。
静川さんは真っすぐ御堂のある方向へと向かっていた。
そんな村の奥に行くよりも、逃げるのだったら県道の方へ行かなければならないのに。そう思って振り返ったオレの目に、音も立てず近づいて来る人々の姿が映った。
足元の草や土を蹴る音はオレと静川さんの二人のものしか聞こえなかった。オレ達の後を追って来ている連中はどう見ても十人は下らなかった。それなのに気配どころか足音も聞こえなかった。
ギョッとしてオレは静川さんに言おうと彼の顔を見た。その静川さんの整端な横顔には、玉になった汗が浮いていた。
オレはもう何も言わず静川さんの後に続いた。
はあはあと息の切れる頃、オレ達二人は例の御堂と思われる所までやって来た。
そこに、行く手を塞ぐかのように待っていた人物があった。
夏菜だった。
御堂を背にし、白い浴衣を見に纏っている。その姿はなまめかしく、艶やかで、暗がりの中にひっそりと立っていた。
思わずオレはその夏菜に近寄ろうとした。が、静川さんはオレの腕をぐいっと掴んで引き留める。
「よく見ろ、あれは人じゃない」
だけど夏菜はたよりなげで、はかなげだった。尚も夏菜に近づこうとするオレを、静川さんは力任せに自分の方へと引き寄せた。
オレの周りをボッと青い光がくるんだような気がした。違う、静川さんのこれは……オーラ?
青い美しい色の、これはオーラなのだろうか。
「静川さん、おとなしく碧海を渡して下されば、貴方は無事にここから逃がしてあげます」
夏菜の声だったが、どこか夏菜の声と違っていた。
「成程、今度は碧海を生け贄にでもするつもりか」