第2章
かわいた雨
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 薄暗い裸電球に照らし出される彼女の姿は、どこか青白く生めいていた。オレは背中にゾクリとしたものを感じた。

 オレが初めて夏菜に会った時、一番に魅かれたのは、その相手を威圧するような目だった。

 蛇に睨まれた蛙という言葉があるが、そんな感じだった。それ程にオレは夏菜に恐怖に似た一種の生めかしさを感じていたのだった。それが一体どういう意味を持つものなのか、今の今までオレは気付かなかったし、知りたくも無かったんだ。だけどこの今の夏菜を見てオレはその正体を初めて悟った。

 同級生に葵翔と言うヤツがいた。この五月に一度に両親を亡くして親戚の家へ引き取られて行ってから会ってはいないけど、オレはそいつからも夏菜と同じような感じを受けていたと思う。

 そう、どこか人と違った――と言うよりも、ずばり言って人ではないモノが内に潜んでいるような、そんな気がしていた。

 いつもは明るくて人懐っこくておおらかなヤツだったけど、いざって時には圧倒的に周囲を押さえ付けるだけの物を持っていた。

 それはオレ達と同族の、同等の立場でのリーダーシップを取るというものではなく、オレ達とは異なる種族である威圧感だった。

 異なるモノ――まさにその通りだったんじゃないだろうか。葵はオレ達とは違っていたんだ。だけどそれは恐れなんかじゃなかったと思う。オレは葵が好きだったし、嫌っていたヤツなんていなかった様に思う。いつだって振り返れば、優しい目でオレ達を見ていたような気がする。

 夏菜に魅かれたのはそんな葵に似たところを見た所為だろうか。今ではもうはっきりしないことだが、オレはこの時初めて夏菜の内に潜むものは葵翔の持つモノとは異質であることに気付いた。この背中を走るものは確かに恐怖だった。

 オレは動けなかった。

 その時、静川さんが部屋の襖を開けてくれなければどうなっていたか分からなかった。

「おいこら、清水、お前いくら女の子のフリしてても男だろうが。俺の部屋に来い」

 夏菜は余計なことをという表情で静川さんを見た。オレはほっとして立ち上がった。


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